無線電力伝送の月面実証を目指し、産学官が連携:月面探査に向け無線で電力を供給
名古屋工業大学や日本ガイシ、Space Power Technologies(SPT)、名古屋大学、金沢工業大学および、ダイモンは、24GHz帯による無線電力伝送の月面実証に向けて、産学官連携による共同研究を始めると発表した。
窒化ガリウム系半導体を用いた受電整流素子を開発
名古屋工業大学や日本ガイシ、Space Power Technologies(SPT)、名古屋大学、金沢工業大学および、ダイモンは2023年8月、24GHz帯による無線電力伝送の月面実証に向けて、産学官連携による共同研究を始めると発表した。
名古屋工業大学や日本ガイシらによる共同研究グループは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙探査イノベーションハブが実施した第10回研究提案募集(RFP)における研究課題「宇宙・地上両用途の高効率・長距離無線電力伝送用ミリ波デバイスおよび全体システムの開発」に対し、「地球と宇宙で使える24GHz高効率大電力伝送システムおよび新規GaN系整流素子の開発」を提案し、採択された。
共同研究については、「24GHz帯の無線電力伝送(WPT)」を宇宙用と地上用の共通技術とした。その上で、大電力かつ長距離に備えた宇宙用「送受電システム」および、小型で効率が高い地上用「送受電システム」の技術実証を行う。また、無線電力伝送用部品として、窒化ガリウム(GaN)系半導体を用いた受電整流素子の開発を予定している。開発目標としているのは、高い放射線耐性を必要とする宇宙用だけでなく、地上用のミリ波やテラヘルツ波通信にも利用できるGaN on GaN半導体である。
研究グループが取り組む具体的なテーマとして、4つを挙げた。「24GHz受電用GaN on GaN整流素子の開発」と「24GHz帯高出力送電機及び受電機の開発」。そして「GaN on GaNを用いた地上での新規WPTならびに通信応用に関する検討」と「GaNを用いたWPTシステムの宇宙実証に向けた検討」である。
例えば、日本ガイシが開発したGaN基板(FGAN)上に、名古屋工業大学らが開発したGaNトランジスタ構造のマイクロ波整流素子を作製し、放射線耐性に優れた無線電力伝送(WPT)用受電素子を実現していく。また、SPTが開発している地上用ワイヤレス送電機をベースに、月面で利用できるWPT用送電機を開発する。この送電機には、新たに開発する整流素子を搭載することで、WPTシステムの性能を高めていくという。
さらに、開発した素子やシステムの動作検証を行うと同時に、具体的な応用シーンを想定したシステム設計に取り組む。ここでは、ダイモンが月面小型ローバ(YAOKI)の開発によって蓄積した知識やノウハウを活用していく計画である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 京都大ら、電子誘電体の圧電性と強誘電性を実証
京都大学、名古屋工業大学およびオックスフォード・インストゥルメンツらによる研究グループは、電子誘電体と呼ばれる酸化物「TmFe2O4」が、室温において圧電体かつ強誘電体になることを実証した。 - テラヘルツ波通信、光と電波の融合技術で実証
情報通信研究機構(NICT)と住友大阪セメント、名古屋工業大学および、早稲田大学は、大容量のテラヘルツ波信号を光信号に変換し、光ファイバー無線技術を用いて異なるアクセスポイントに分配、送信するシステムの実証実験に成功した。 - マグネシウム蓄電池向けの酸化物正極材料を開発
東北大学や慶應義塾大学などの研究チームは、マグネシウム蓄電池の正極材料として、スピネル型のマグネシウムマンガン系酸化物を開発した。 - 東北大ら、リチウムイオン電池正極材料を開発
東北大学と名古屋工業大学の研究グループは、リチウムイオン電池の正極材料として逆蛍石型リチウム鉄酸化物を用い、これまでの2倍以上となる可逆容量を達成したと発表した。 - メンテナンスフリーの屋内外位置トラッカーを開発
日本ガイシとスウェーデンExeger、立花電子ソリューションズおよび、米国Semtechの4社は、極めて薄く小型サイズでありながら、高精度に位置情報を取得できるメンテナンスフリーの「屋内外位置トラッカー」を開発した。 - 早稲田大学ら、ステップアンバンチング現象を発見
早稲田大学らの研究グループは、SiC(炭化ケイ素)ウエハー表面を原子レベルで平たん化する技術に応用できる「ステップアンバンチング現象」を発見した。プロセスは比較的シンプルで、加工によるダメージ層もないという。