京都大ら、電子誘電体の圧電性と強誘電性を実証:誘電性に関する論争で一応の決着
京都大学、名古屋工業大学およびオックスフォード・インストゥルメンツらによる研究グループは、電子誘電体と呼ばれる酸化物「TmFe2O4」が、室温において圧電体かつ強誘電体になることを実証した。
鉄イオンにおける電子の局在化とTmイオンの変位が起源
京都大学、名古屋工業大学およびオックスフォード・インストゥルメンツらによる研究グループは2023年7月、電子誘電体と呼ばれる酸化物「TmFe2O4」が、室温において圧電体かつ強誘電体になることを実証したと発表した。
研究グループは、組成式が「RFe2O4」(Rは希土類元素あるいはインジウム)の酸化物に類似したTmFe2O4の単結晶を合成した。その上でX線による単結晶の構造解析や、圧電応答顕微鏡による誘電性の測定などを行った。誘電性の測定では、電場の大きさを変えながら、「結晶のひずみ」や「誘電分極の向き」について、電場との関係性を調べた。
RFe2O4は、鉄イオンから成る2次元層が2枚(W layer)と、Rイオンから成る1枚の2次元層が規則的に積み重なった結晶構造となる。ここでは、安定なイオン配置が存在せず(電荷のフラストレーション)、磁気モーメントの配列にも安定な構造は存在しない(磁気的フラストレーション)という。
温度が下がってくると、電荷分布と磁気モーメントの配列は規則的な構造となる。隣接する2枚の鉄イオン層(W layer)のうち、一方はFe3+が過剰で、もう一方はFe2+が過剰となれば、磁気的なエネルギーが最も低くなる。この構造だと、2枚の鉄イオン層がそれぞれ正電荷と負電荷を帯びて、電気双極子モーメントが形成される。これらが全て同じ方向に並べば、強誘電性が生じることは既に報告されているという。ただ、RFe2O4の本質的な誘電性については、これらと異なる解釈もあったという。
研究グループは、TmFe2O4を対象とした今回の実験において、強誘電性や圧電性の証拠となる結果を得た。さらにこの起源が、鉄イオンにおける電子の局在化とTm(ツリウム)イオンの変位であることを突き止めた。
構造解析の結果から、結晶は反転対称性の破れたCmという空間群を持つことが明らかとなり、W layerにおける電荷の分布状態も分かった。そして、2価と3価の鉄イオンの電荷分布がTm3+イオンの変位と相関し、両者が電気双極子モーメントの規則的な配列を導くことによって、強誘電性が安定化するというモデルを提案した。レーザー干渉計を用いた測定で、圧電定数の値を求めることにも成功した。
研究グループは、「この結晶に強い電場を加えると、局在化した電子の秩序状態が壊れて無秩序な状態となるため、圧電性や強誘電性が消失して逆に電気伝導が生じる。この現象は、電場の強さに応じて可逆的に起こることも見いだした」とコメントしている。
今回の研究は、京都大学大学院工学研究科の小西伸弥研修員と田中勝久教授、名古屋工業大学大学院工学研究科の漆原大典助教と浅香透准教授、オックスフォード・インストゥルメンツの石井孝治博士らによる研究チームおよび、東京工業大学、九州大学が共同で行った。
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