超伝導状態にある物質の電子状態や磁性状態を制御:相互作用を原子レベルで観測
東北大学らによる研究グループは、超伝導体である2セレン化ニオブ(NbSe2)の劈開表面に、コバルト(Co)原子を層間挿入することで、超伝導状態にある物質の電子状態や磁性状態を制御することに成功した。
Coと外部磁場を組み合わせ、新たな近藤状態が制御可能に
東北大学らによる研究グループは2023年8月、超伝導体である2セレン化ニオブ(NbSe2)の劈開表面に、コバルト(Co)原子を層間挿入することで、超伝導状態にある物質の電子状態や磁性状態を制御することに成功したと発表した。
超伝導体は、量子ビットの材料候補として注目されている。特に、強磁性金属と組み合わせれば、量子ビットの雑音耐性を高めるといわれる「マヨラナ粒子」を形成できるからだ。しかし、超伝導状態と強磁性金属が、原子レベルでどのように相互作用しているかは、これまで十分に解明されていないという。
研究グループは今回、走査型トンネル顕微鏡とトンネル分光を用い、超伝導状態にある物質の変化を原子レベルで観測することにした。超伝導状態にある物質の近くに磁性体が存在すると磁気的な散乱により、「YSR(Yu-Shiba-Rusinov)状態」と呼ばれる新たな準位が生じるという。
実験では、固体内部に存在するCo原子によって生じるYSRピークを、Co原子からの距離として観測した。この結果、表面下のCo原子に近づくと、より中央にYSRピークが接近し、左右を逆転することが分かった。磁気相互作用がさらに強くなると、「クーパー対」は解消され、不純物スピンを遮ろうとする「近藤効果」が現れた。
左上はCo原子をインターカレーションしたNbSe2表面のSTM像。左下は位置依存トンネル分光、フェルミ準位近傍のYSRピーク。右上はそれをカラープロットで表現。右中と右下はCoからの距離に依存した近藤ピークの変化[クリックで拡大] 出所:東北大学
今回は磁気的交換相互作用について、テルビウム・フタロシアニン錯体(TbPc2)を吸着させた試料を用いて検証した。TbPc2にはスピンが存在するものの、NbSe2でクーパー対が形成されているため、スピンを遮ることができず、近藤効果は生じなかった。
ところが、表面下のCoによる交換相互作用によって、新たな近藤効果が出現したという。この実験により、Coと外部磁場を組み合わせることで、新規の近藤状態を形成し、制御が可能なことを実証した。
今回の研究は、東北大学多元物質科学研究所のFerdous Ara特任研究員、Syed Mohammad Fakruddin Shahed助教、米田忠弘教授、東北大学大学院理学研究科の山下正廣名誉教授および、城西大学大学院理学研究科の加藤恵一准教授らが共同で行った。
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