透過型偏向器を開発、テラヘルツ波を広角に制御:電波が遮られるエリアを回避
東北大学の研究グループは、テラヘルツ波において広がる方向を広角制御できる「透過型偏向器」を開発した。0.3〜0.5THzの周波数帯で74°という広角の偏向走査を実現した。
0.3〜0.5THzの周波数帯で34〜74°の偏向走査を実現
東北大学大学院工学研究科の金森義明教授らによる研究グループは2023年8月、テラヘルツ波において広がる方向を広角制御できる「透過型偏向器」を開発したと発表した。0.3T〜0.5THzの周波数帯で74度という広角の偏向走査を実現した。
6G(第6世代移動通信)システムでは、使用する電波として「テラヘルツ波」が予定されている。ただ、波長が短いため障害物によって電波が遮られやすいなど、課題もある。透過型偏向器は、こうした課題を解決するために開発した。
研究グループは今回、低損失誘電体であるシリコン製のサブ波長構造が周期的に配列された透過型メタマテリアルを開発した。これを用い、実効屈折率分布制御に基づくテラヘルツ波偏向器を作製した。隣り合うサブ波長構造の寸法を変更すれば、透過波の向きを変えることができるという。
透過型メタマテリアルの母材となるシリコンは、テラヘルツ波を吸収しない。このため、電力効率の高い偏向器を実現できるという。屈折率も大きく、厚さ525μmと薄くても広い偏向角度走査が可能となる。電磁界解析法を用いて設計した透過型メタマテリアルは、0.3T〜0.5THzの周波数帯で35〜72度の偏向走査、0.4THzのテラヘルツ波を70%以上の電力効率で偏向可能だという。
試作した透過型メタマテリアルに、周波数0.4THzのテラヘルツ波を垂直入射させたところ、46度の向きに広がることを確認した。0.3〜0.5THzの周波数帯においては、34〜74度の偏向走査を実現した。これらの値は、電磁界解析で得られた理論値と同等性能だという。
今回の研究成果は金森教授の他、大学院生の千葉滉平氏、岡谷泰佑助教および、猪股直生准教授らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 超伝導状態にある物質の電子状態や磁性状態を制御
東北大学らによる研究グループは、超伝導体である2セレン化ニオブ(NbSe2)の劈開表面に、コバルト(Co)原子を層間挿入することで、超伝導状態にある物質の電子状態や磁性状態を制御することに成功した。 - CNTの近赤外発光、これまで以上の長波長域で発現
東京学芸大学の研究グループは、分子科学研究所や東北大学、長崎大学と共同で、カーボンナノチューブ(CNT)に適切な化学修飾を行い、これまで以上の長波長域に近赤外発光を発現させることに成功した。 - 蓄電池電極内で容量が劣化する情報を非破壊で取得
東北大学を中心とする共同研究グループは、充放電による蓄電池電極内の容量劣化に関する情報を、定量的かつ非破壊で取得できる手法を開発した。この技術を用いると、蓄電池の性能劣化について、迅速かつ効率的にその要因を特定することができ、長寿命の蓄電池開発につながるとみている。 - 高速量子ビット読み出し手法をグラフェンで実現
東北大学の研究チームは、微小なグラファイト電極を用い、二層グラフェン量子ドットにおける高周波反射測定を実現した。グラフェン量子ドット電荷計を垂直配置することで、高速/高精度な量子ビット読み出しが可能になるという。 - 東北大、完全表面結晶化ガラスファイバーを創製
東北大学は、光透過率が90%以上という透明多結晶性セラミックス「完全表面結晶化ガラスファイバー」を作り出すことに成功した。光ファイバー通信システムのさらなる大容量化が可能となる。 - 光でも電気でも書き込める不揮発性磁気メモリ材料
東北大学は、光で情報を記録できる単結晶コバルト(Co)/白金(Pt)構造において、外部磁場がなくても電流注入で磁化反転させることに成功した。光でも電気でも情報を書き込める不揮発性磁気メモリ材料として期待される。