東工大、面内分極を用いた不揮発性メモリ開発:ナノ水準のボトムコンタクト構造
東京工業大学は、ナノチャネルボトムコンタクト型2次元強誘電半導体「α-In2Se3(α相セレン化インジウム)」メモリを開発した。マルチレベルセル(MLC)相当の記憶状態を得られる可能性があるという。
マルチレベルセル相当の記憶状態を得られる可能性も
東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の真島豊教授らによる研究グループは2023年8月、ナノチャネルボトムコンタクト型2次元強誘電半導体「α-In2Se3(α相セレン化インジウム)」メモリを開発したと発表した。マルチレベルセル(MLC)相当の記憶状態を得られる可能性があるという。
α-In2Se3は、原子スケールで強誘電性や光電性、半導体性を有するため、高速メモリ材料として注目されている。ところが、これまでのα-In2Se3メモリは、ギャップ長がマイクロメートルレベルで、α-In2Se3上にソース/ドレイン電極を形成するトップコンタクト構造となっているため、α-In2Se3部が面外分極反転しても、チャネル部は面内分極反転しなかったという。
そこで研究グループは、ギャップ長がナノメートルレベルで、ボトムコンタクト構造の不揮発性α-In2Se3メモリを開発することにした。このため今回は、電子線リソグラフィを用いてギャップ長が20nm以下の白金ナノギャップ電極を作製するという既存技術を応用した。
具体的には、電極間隔が100nmのナノギャップ電極をシリコン基板上に形成し、α-In2Se3をナノギャップ電極に転写したボトムコンタクト型のメモリ構造を作製した。
作製したα-In2Se3メモリの電流−電圧特性を測定した。この結果、面内分極反転に基づく強誘電半導体の不揮発性メモリループ効果を示し、103に達するON/OFF比が得られることを確認した。データ保持時間(リテンション)は17時間以上で、耐久性は1200サイクル以上となった。
これらのデータから、ナノチャネルボトムコンタクト型α-In2Se3メモリは、面内分極を利用する新たな記録方式の不揮発性メモリとして、産業用途への応用が期待できるとみられる。しかも、面内分極が横方向電界によって再配列するMLC相当の記憶状態が得られる可能性があるという。
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