SiC量子センサー、120℃までの温度計測に成功:車載用途で175℃まで測定も可能に
量子科学技術研究開発機構(QST)は、SiC(炭化ケイ素)量子センサーを用い、120℃までの温度計測に成功した。車載用SiCパワー半導体の動作保証温度である175℃までの測定も可能とみている。
基底準位と励起準位に対し、量子操作を同時に行う手法を開発
量子科学技術研究開発機構(QST)高崎量子応用研究所量子機能創製研究センターの山崎雄一上席研究員らによる研究チームは2023年9月、SiC(炭化ケイ素)量子センサーを用い、120℃までの温度計測に成功したと発表した。車載用SiCパワー半導体の動作保証温度である175℃までの測定も可能とみている。
QSTはこれまで、SiCダイオード中にシリコン空孔(VSi)と呼ばれるスピン欠陥(SiC-VSi)を形成するための技術を開発してきた。SiC-VSiは磁場と温度を同時に測定できる量子センサーとして機能する。これを利用して、動作中のSiCダイオードの内部温度を測定できる。ただ、感度が極めて低く、これまでは温度が50℃を超えると測定が難しかったという。
上図はSiCダイオード中に形成した量子センサーのイメージ。左下はSiCダイオード中へ2次元的に形成したVSiアレイ。右下はSiCダイオードに電流を流し、SiC-VSiで測定した内部の温度[クリックで拡大] 出所:QST
QSTは今回、SiC-VSiについて、温度測定に必要となる励起準位だけでなく、温度に対して感度がない基底準位についても、同時に量子操作を行った。これにより、SiC-VSiの基底準位について信号強度が特異的に変化する現象を発見した。しかも、温度測定ではこれまで利用できなかった基底準位の信号にも、温度情報が反映されていることが分かり、温度の検出感度を大幅に改善することに成功した。
基底準位と励起準位に対し、量子操作を同時に行う手法を用い、SiC半導体の温度測定を行った。この結果、励起準位にのみ量子操作を行う従来の手法に比べ、信号強度が約10倍以上も強くなることを確認した。これにより、これまで50℃程度であった測定可能な温度が、120℃を超えるまで測定できることを実証した。
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