京都大ら、パルス1回の照射でNV中心を広域に形成:NV中心の作製領域は100倍以上に
京都大学と東海大学の研究グループは、ダイヤモンド基板にフェムト秒レーザーパルスを1回照射するだけで、窒素−空孔(NV)中心をミリメートルのサイズで形成することに成功した。
高感度量子センサーなどへの応用に期待
京都大学と東海大学の研究グループは2023年3月、ダイヤモンド基板にフェムト秒レーザーパルスを1回照射するだけで、窒素−空孔(NV)中心をミリメートルのサイズで形成することに成功したと発表した。高感度量子センサーなどへの応用が期待される。
ダイヤモンド中のNV中心を用いた量子センサーは、高感度で高空間分解能を有することから、その応用が注目されている。ところが、多量のNV中心を作製するには、高エネルギーの電子線を照射するための加速器や、安全に作業を行うための大規模な施設が必要であった。窒素イオン注入によって作製する技術もあるが、その領域はマイクロメートル程度が最大であったという。
研究グループは今回、化学研究所先端ビームナノ科学センターが独自に開発した高強度短パルスレーザーを用いた。パルスの時間幅は35フェムト秒、パルス1発のエネルギーは最大500mJである。
実験では、スポット径が41μmのレーザーパルスを用い、照射回数やフルーエンス(単位面積当たりのパルスエネルギー)などの条件を変えながら、ダイヤモンド基板に照射した。この結果、グラファイト化閾値を超える高いフルーエンスで照射すると、パルス1回の照射でその領域にはNV中心が形成されることを確認した。
続いて、ダイヤモンド基板に照射するパルスの回数を1回に固定し、フルーエンスを高めていった。フルーエンスが1.8J/cm2以上になるとNV中心が形成された。10J/cm2程度になると、NV中心はビームスポット径と同じ大きさとなった。さらにフルーエンスを高めるとNV中心の形成領域が拡大。実測値からフルーエンスが54J/cm2のとき、形成領域は100μmまで拡大することが分かった。この広さは従来の100倍以上だという。
左はフェムト秒レーザーパルスをダイヤモンド基板に照射するための測定系。中央は照射位置におけるビームスポット画像。右はダイヤモンド基板上にフルーエンスを変えながら照射した後に観察した発光画像[クリックで拡大] 出所:京都大学
さらに、パルスエネルギー166mJでフルーエンス33J/cm2、スポット径1.13mmのパルス光をダイヤモンド基板に照射して、試料の表面を観察した。この結果、パルス1回の照射によって、ミリメートルサイズの領域にNV中心が形成されていることを確認した。
今回の研究成果は、京都大学化学研究所の水落憲和教授、東海大学の橋田昌樹教授および、京都大学化学研究所の時田茂樹教授、藤原正規同特定研究員、升野振一郎同研究員らによるものである。
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