ArmのIPO、ソフトバンクの目標は「楽観的過ぎ」:情報筋が指摘(2/2 ページ)
業界観測者が米国EE Timesに語ったところによると、ソフトバンクグループがArm株式の売却によって得る資金は、当初期待されていたより少なくなるようだ。その理由の一つとして挙げられるのが、Armが直面し続けるいくつかの不確実要素だ。
成長の見通し
Armに近い情報筋によると、有意義かつ持続可能な成長がどこからもたらされるのかを見極めるのは難しいという。同社は最近、利益を上げるために研究開発が空洞化しているという声もある。
このアナリストは、「それでも、2021年に初めて導入されたArmの『v9』アーキテクチャは、将来性のあるAI(人工知能)分野で新たな収益源になると期待される」と述べている。
「Armはv9の導入に伴い、ロイヤリティーの引き上げを検討している。現在、チップの投入に向けて準備を進めている。v9は、Amazonのプロセッサ『Graviton 4』やNVIDIAのCPU『Grace』、MediaTekのSoC(System on Chip)『Dimensity 9200+』など、多くの新製品に採用される予定だ」(同氏)
「ArmがAIからどのような恩恵を受けるかについても議論があった」と同アナリストは付け加えた。
「ここで留意すべきは、ArmはCPUライセンス企業で、Armから提供されたAIライセンスはまだないということだ」(同氏)
同アナリストは、「Armはライセンスモデルをサブスクリプションに移行することを示唆しているが、これはソフトウェア業界が長年にわたって行ってきたことだ。それがより良い成長につながるかどうかは、まだ分からない」と述べている。
マイナス要因
EE Timesがインタビューした業界観測筋によると、ArmのIPOの市場価格を下落させる要因は他にもあるという。
「財務的な観点から見ると、Armはかつて、明らかに50%を超える営業利益を生み出していたが、ソフトバンクGが買収すると大きな投資サイクルに入った。Armが上場していた最後の頃の利益率を取り戻す必要がある」とアナリストは述べている。
アナリストは、「子会社であるArm Chinaの独立によって、Armは売上高の約4分の1を失う可能性がある」と付け加えた。その兆候は、Armが米国証券取引委員会にIPOを申請したことからも読み取れる。登録届け出書Form F-1を読めば、ArmがArm Chinaの株式のほとんどを売却した経緯が分かる。これは、Armの2022年の売上高の24%にあたる」と述べている。
Armに近い情報筋によると、Armは、同社の見通しが明るいと投資家を納得させられるような大きな成功をほとんど収めていないという。
「この7年間で、Armは何十億米ドルも無駄にし、もうかるはずのないIoT(モノのインターネット)を追求してきた。(Armが)やるべきは、まだたくさん残っているはずだ」(同氏)
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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