AIやHPC、自動運転によって用途が広がるGDDR:GDDR7商用化も近づく
GDDRの「G」は「グラフィックス」の頭文字だが、今日、この高性能メモリのユースケースは“演算性能”に集中している。最近GDDR7 DRAMを発表したSamsung Electronicsは、高性能コンピューティングや人工知能、車載アプリケーションなどの分野でGDDRの採用が進むと予想している。
GDDR(Graphics Double Data Rate)の「G」は「グラフィックス」の頭文字だが、今日、この高性能メモリのユースケースは“演算性能”に集中している。Samsung Electronics(以下、Samsung)が最近発表したGDDR7 DRAMが、高性能コンピューティング(HPC)や人工知能(AI)、車載アプリケーションに用途を定めているのもそのためだ。
米国の半導体市場調査会社であるObjective Analysisの主席アナリストを務めるJim Handy氏は米国EE Timesのインタビューで、「グラフィックスアプリケーションは行列代数に大きく依存していて、GDDRとGPUは行列代数に適している。GDDR DRAMは多くのAIワークロードで必要とされるため、グラフィックス以外もサポートするようになった」と語った。
Handy氏によると、航空翼設計や気象モデリングのようなスーパーコンピューティングアプリケーションでは、基礎となる演算処理のためにGDDRとGPUが使用される。また、GDDRはグラフィックスアプリケーション向けに開発されたものであるため、『アバター』のような、複数のGPUを使用する大作映画のCGI(コンピュータグラフィックスイメージング)などのビデオ制作に多用されているという。
GDDRは大量のデータを迅速に並列処理できるため、Samsungは、ゲームPCやノートPC、コンソールといった従来の用途だけでなく、AIや機械学習、HPC、ビジュアル化が進むダッシュボードや先進運転支援システム(ADAS)をサポートする車載アプリケーションなど、より高いメモリ帯域幅と処理速度を必要とする分野でGDDRの採用が進むと予想している。
Samsungは電子メールによるインタビューで、「GDDR7の最大速度は32Gビット/秒(bps)に達し、既存のサーバやPC向けDRAMから大幅に性能が向上している」とEE Timesに語った。
Samsungによると、GDDRは、従来のDRAMよりも速度面で優れていると同時に、総所有コストと技術的要件の点でHBM(High Bandwidth Memory)に比べて競争力があるため、DRAMとHBMの間のギャップを埋める存在になっているという。高帯域幅ソリューションの需要の高まりとともに、HBMのようなハイエンドソリューションは特定のアプリケーションにとっては最良の選択肢ではなくなる可能性も生じている。GDDRはそうした顧客にとって代替品になり得る。
DRAM需要鈍化の中でも「GDDR7」採用は拡大の期待
現在、DRAMの需要は鈍化しているが、SamsungはGDDR7に対する顧客エンゲージメントは「堅調」であると予想していて、より高い性能を必要とするアプリケーションでの採用が拡大すると期待しているという。
Samsungは、GDDR7 DRAMで先陣を切ることになるとみられる。同社は、検証のためにまず、主要顧客の次世代システムにGDDR7 DRAMを搭載するという。メモリ帯域幅はGDDR6の1.1TB(テラバイト)/秒の1.4倍となる1.5TB/秒で、ピン当たりの速度が最大32Gbpsまで向上するなど、以前のバージョンから顕著な改善が見られる。
Samsungは、「これらの機能強化は、前世代のNRZ(Non Return to Zero)の代わりに新しいメモリ規格に採用されたPAM3(パルス振幅変調)信号方式によって実現した。PAM3は、同じ信号サイクル内でNRZよりも50%多くのデータを送信できる」と説明している。
同社は、「GDDR7の設計では、高速動作向けに最適化された省電力設計技術によって、エネルギー効率も20%向上している。これにより、ノートPCなど、電力使用量に特に気を配る必要のあるアプリケーション向けの低動作電圧オプションになる」と述べている。
Samsungが開発したGDDR7 DRAMは、メモリ帯域幅はGDDR6の1.1TB/秒の1.4倍となる1.5TB/秒で、ピン当たりの速度が最大32Gbpsまで向上するなど、以前のバージョンから顕著な改善が見られるという[クリックで拡大] 出所:Samsung Electronics
Micron Technologyは2023年夏、1βノードを適用した、同社初となるGDDR7メモリデバイスを2024年前半に発売すると発表し、Cadence Design Systemsは2023年春にGDDR7の技術詳細を発表している。
GDDRは、その誕生以来の新たな用途が見つかろうとしている実証済み技術の一例だ。Handy氏は、「これは非常に古くからあるコンセプトだ。ビデオRAMは1980年代後半に発明され、GDDRはその延長線上にある」と述べている。
ただし、GDDRとGPUはどちらも限界がある。
Handy氏は、「GPUは、行列代数を非常にうまく処理するように特別に設計されているが、それ以外のことはあまりうまく処理できない。GPUでロボットアームを制御しようとすると、非常に高額になり、16ビットCPUで制御する場合よりも性能が低くなる可能性が高い」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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