乾電池1本(1.5V)で発光する青色有機ELを開発:1.97V印加で発光輝度100cd/m2に
東京工業大学や富山大学、静岡大学らの研究グループは、電圧1.5Vの乾電池1本で発光させることができる「青色有機EL」の開発に成功した。開発した有機ELは、青色発光(波長462nm)を印加電圧1.26Vで確認、1.97Vでは発光輝度が100cd/m2に達した。
2種類の有機分子からなる界面を利用する独自の発光原理で実現
東京工業大学や富山大学、静岡大学らの研究グループは2023年9月、電圧1.5Vの乾電池1本で発光させることができる「青色有機EL」の開発に成功したと発表した。開発した有機ELは、青色発光(波長462nm)を印加電圧1.26Vで確認、1.97Vでは発光輝度が100cd/m2に達した。
有機ELは、大画面TVやスマートフォンなどに向けたディスプレイとして需要が拡大している。高コントラストで色彩性が豊かなど、表示性能に優れる。その半面、駆動電圧が高く、消費電力が大きいという課題があった。中でも、青色有機ELの場合、発光させるには一般的に4V程度の電圧を必要とし、素子の長期安定性も低かったという。
研究グループは今回、2種類の有機分子からなる界面を利用する独自の発光原理で、青色発光を実現した。その発光メカニズムはこうだ。デバイスに注入された電子と正孔(ホール)は、ドナー層とアクセプター層の界面で再結合し、「電荷移動(CT)状態」という励起状態を形成する。
その後、CT状態からエネルギー移動が起こり、ドナー層中で三重項励起状態(T1)を生成する。さらに、ドナー層中では2つの三重項励起状態から、三重項−三重項消滅により高エネルギーの一重項励起状態(S1)を作り出すアップコンバージョンが行われ、青色に発光するという。
研究グループは、発光メカニズムを実現するドナー/アクセプター分子について、最適な組み合わせを解明するため、青色発光を示すドナー分子として「5種類のアントラセン誘導体」を、アクセプター分子として「14種類のナフタレンジイミド誘導体」を用い、それぞれ詳細に調べた。
この結果、ドナー/アクセプター分子を適切に組み合わせて試作した有機ELデバイスを用いると、462nmで最大発光強度となる青色発光(光エネルギーで2.68eVの青色の発光)を観測した。実験では印加電圧が1.26Vになると青色の発光を確認できた。その後、1.97Vまで上げていくと、発光輝度は100cd/m2に達した。この値は、スマートフォンのディスプレイに相当する発光輝度だという。
研究グループは、試作した素子の安定性を検証するため、発光輝度が1000cd/m2の状態で、連続駆動した時の輝度低下を測定した。この結果、従来の青色りん光有機EL素子と比べ、素子寿命は約90倍長いことが分かった。
今回の研究成果は、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所/大阪大学接合科学研究所の伊澤誠一郎准教授(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者兼務)、富山大学の森本勝大准教授、静岡大学の藤本圭佑助教らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東工大、面内分極を用いた不揮発性メモリ開発
東京工業大学は、ナノチャネルボトムコンタクト型2次元強誘電半導体「α-In2Se3(α相セレン化インジウム)」メモリを開発した。マルチレベルセル(MLC)相当の記憶状態を得られる可能性があるという。 - 超高圧下で新たな酸水素化物 の合成に成功、東工大
東京工業大学、科学技術創成研究院、量子科学技術研究開発機構らの研究グループは、超高圧合成法により新規酸水素化物の合成に成功したと発表した。同物質はリチウムイオン電池の負極材料として高い性能を持つという。 - 光アイソレーターの回路面積、従来の1/10以下に
東京工業大学らによる共同研究チームは、光アイソレーターの回路面積を従来の10分の1以下にできる技術を開発した。磁気光学結晶を1μm以下まで薄膜化して中空に保持されたシール構造に加工する技術と、シリコン光回路上の任意領域へ高精度に貼り付ける転写技術を開発し、それを適用することで実現した。 - 共有結合性有機構造体の合成法と薄膜化手法を開発
東京工業大学は、多孔質材料である共有結合性有機構造体(COF)を電気化学的に合成するとともに、常温常圧下で電極上にCOF膜を直接固定化できる手法を開発した。 - CPU/GPUとメモリを3次元実装、東工大などが開発
東京工業大学は、CPU/GPUとメモリを3次元実装するハイブリッド3次元実装技術「BBCube 3D」を開発した。CPU/GPUとメモリ間で、大容量データを低電力で伝送することが可能となる。 - 東工大ら、高伝導率のリチウムイオン伝導体を開発
東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構、東京大学の研究グループは、伝導率が32mS cm-1という固体電解質のリチウムイオン伝導体を開発した。この材料を用い厚膜が1mmの正極を作製したところ、電極面積当たりの容量が現行の1.8倍となった。