燃料電池内部の電流分布をリアルタイムに可視化:磁気センサーを用い非破壊診断
筑波大学と小山工業高等専門学校は、磁気センサーを用いた非破壊診断により、燃料電池内部の電流分布をリアルタイムに可視化し、安定した稼働を実現するための制御システムを開発した。
燃料電池の不具合を検知・制御する新たな手法を提案
筑波大学と小山工業高等専門学校は2023年9月、磁気センサーを用いた非破壊診断により、燃料電池内部の電流分布をリアルタイムに可視化し、安定した稼働を実現するための制御システムを開発したと発表した。
燃料電池は、水素や空気などの燃料を使って発電するクリーンな発電技術として期待されている。ただ、発電時に発生する水が、電池内部にたまって発電の邪魔をする「フラッディング」や、水を除去しすぎて水素イオン透過する高分子膜が乾燥する「ドライアウト」と呼ばれる現象が生じることもある。
これらの現象が、発電性能の低下につながっていた。また、燃料供給量や熱、電流などの分布を管理することも重要となる。とりわけ、電流分布を一定に保つことによって、燃料電池の安定稼働が可能になるという。
研究グループは今回、空冷式燃料電池に磁気センサーを挿入した。少なくても2個の磁気センサーによって得られたデータを用い、フラッディングやドライアウトなどの故障を、リアルタイムで特定できる手法を開発した。
開発した手法は、電流分布の絶対値を測定するのではなく、運転初期状態(健全状態)からの差分を算出することで、センサーの計測数と計算時間の削減を可能にした。この手法は、健全状態と不具合状態との差を予測することに着目しており、こうして得られた電流分布を「電流強度分布」と呼ぶ。
今回の研究では、既に開発済みの電圧指標を用いた制御方式における電流分布を評価した。この結果、電圧波形は燃料電池の運転開始から765秒後に水を排出してフラッディングを回避して回復。しかし、電流強度分布は変化せず、850秒後に偏りが減少し始め、900秒後に偏りはなくなった。
こうした状況から、出力電力の回復に比べて電流分布の均一化は遅れることが分かった。ドライアウト時も同様な状況だという。これらの結果を基に、電流分布を均一化する制御方法を開発した。
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