マイクロ波アイソレーターの超小型化を可能に:大規模量子コンピュータなどに応用
国立天文台の増井翔特任研究員らによる研究チームは、極めて小さいマイクロ波アイソレーターを実現するための基礎原理を開発し、その実証実験に成功した。大規模な量子コンピュータや多素子電波カメラへの応用を視野に入れる。
2つの周波数ミキサーと2つの位相制御回路による単純な構成
国立天文台の増井翔特任研究員らによる研究チームは2023年7月、極めて小さいマイクロ波アイソレーターを実現するための基礎原理を開発し、その実証実験に成功したと発表した。大規模な量子コンピュータや多素子電波カメラへの応用を視野に入れる。
アイソレーターは、信号の向きを制御する部品の一つ。国立天文台が開発する電波観測装置でも、超伝導センサーと増幅器の間に挿入して、信号が逆流することを防いでいる。こうした目的で、アイソレーターはさまざまな装置に実装されている。ただ、磁性体を用いる一般的なアイソレーターは、外形寸法が最小でも3×3×1cm程度であり、これより小さくするのは難しかったという。
研究チームは今回、2つの周波数ミキサーと2つの位相制御回路による単純な構成で、アイソレーターが実現できることを考案し、これを理論的かつ実験的に実証した。開発したアイソレーターは、基板上の平面回路内において全て構成できるため、集積回路ではミリメートルサイズまで小型化できる可能性があるという。磁性体を用いたアイソレーターに比べ、体積では3桁以上も小さくできる計算になる。
機能する周波数にも大きな違いがある。開発したアイソレーターは原理的にGHzオーダーの周波数帯域で動作し、従来品と同等性能が得られる可能性が高いという。
研究チームは、信号を増幅する機能を備えたアイソレーターの開発も行う予定である。電波観測装置では既に、信号を増幅できる超伝導ミキサー(SISミキサー)が用いられている。今回の研究では周波数ミキサーに市販の半導体ミキサーを用いたが、今後はSISミキサーの利用も計画している。
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