NXPがS32プラットフォームを拡充、BLDCモーター制御用SoCを追加:E/Eアーキテクチャの変化に対応
NXP Semiconductorsが車載用のプラットフォーム「S32」シリーズを拡充し、ブラシレス直流(BLDC)モーター制御向けのSoC(System on Chip)「S32M2」を発表した。これにより、今後の車載アーキテクチャに対応できる製品が一通りそろったとする。
NXP Semiconductors(以下、NXP)は2023年11月7日(米国時間)、車載用プラットフォーム「S32」の最新製品として、SoC(System on Chip)「S32M2」を発表した。ヒートポンプやシートポジション、サンルーフなどの駆動に使われる、比較的小さなモーターの制御に向けた製品になる。特に、ブラシレス直流(BLDC)モーターや永久磁石同期モーター(PMSM)など、小型で高効率なモーターの制御を簡素化できることが特長だ。
NXPは2017年に車載用マイコン/プロセッサをS32のプラットフォームとして刷新。以来、車載ネットワーク用プロセッサ「S32G」、SDV(Software Defined Vehicle)向けのリアルタイムプロセッサ「S32Z」「S32E」、車載用汎用マイコン「S32K」を順次展開してきた。NXPジャパン マーケティング統括本部 マーケティング部で部長を務める吉沢郁夫氏は、「今回、自動車のエンドポイントに当たるモーター/アクチュエーターを駆動するS32M2を発表したことで、SDVへの移行に対応できる、トップからボトムまでのデバイスが一通りそろった」と語った。
マイコンとアナログを1パッケージに統合
S32M2は、S32Kファミリーの「S32K1」もしくは「S32K3」と、電圧レギュレーターやMOSFETゲートドライバーなどを搭載したアナログチップを1パッケージに統合したもの。アナログチップには、CAN FDあるいやLIN用のPHYも搭載されている。マイコンとアナログ/パワーを集積したことで、BOM(Bill of Material)コストを低減できるとする。S32K1/K3向けに開発したソフトウェアを再利用できるので、開発期間を短縮できることに加え、車載システムのアーキテクチャの進化に合わせたモーター制御機能の移行もしやすいことが特長だ。
なお、S32K1には、ArmのCortex-M0+ベースとCortex-M4ベースの2種類があり、S32M2に統合されているのは、Cortex-M4の品種(最大動作周波数は80MHz)になる。S32K3は、Cortex-M7(同120MHz)をベースにしている。
自動車の中でも、末端の部分のモーター駆動に使われるS32M2は、幅広いアプリケーションに使うことができる。吉沢氏は、「自動車には、コストの問題でブラシ付きモーターを使うことも多い」と語る。「S32M2によって、コストを抑えつつ、高効率なBLDCモーターやPMSMを導入しやすくなれば、電気自動車(EV)の省エネ化を実現できる。BLDCモーターは、ブラシ付きモーターに比べてモーター音も静かなので、車室内の騒音が減り、快適さも上がると期待される」(同氏)
現在、自動車の電気/電子アーキテクチャは、単機能のECU(電子制御ユニット)を分散して配置する分散型から、ハーネスやECUの数を削減するために、ECUを機能ごとあるいは、物理的な位置ごとに統合するドメイン型や中央集約型に移行が進むとされている。吉沢氏は、「S32M2は、どのようなアーキテクチャでも(統合されずに)残るアクチュエーター部分に使われるので、E/Eアーキテクチャの移行とともにECUの統合が進んでも、S32M2が使われる場所自体が減ることはないと考えている」と述べた。

E/Eアーキテクチャの進化。左側から右側へと、進化するとされている。なお、図版で各ユニットやゾーンを結んでいる黒い線の太さは、通信速度(太いほど高速)を表しているという[クリックで拡大] 出所:NXPジャパン
S32M2には現在、マイコンのコアやメモリ容量が異なる6品種のラインアップがある。ISO 26262のASIL Bまでの機能安全に対応している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
NXPが車載用MCU/MPUを一新へ
NXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)は、車載システム向けの新たなコンピューティングアーキテクチャ「NXP S32プロセッシングプラットフォーム」を発表した。自動運転などを視野に入れた新型自動車の迅速な市場投入を可能とする。NXPの新車載マイコン、ソフト開発の負担減を目指す
NXP Semiconductors(以下、NXP)は2020年11月10日、Arm Cortex-Mシリーズをベースとした車載向け汎用マイコン「S32K」ファミリーの新製品として、Cortex-M7コアを搭載した「S32K3」ファミリーを発表した。NXP、車載用プロセッサ「S32Z/S32E」を発表
NXP Semiconductorsは、ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)に向けた車載用リアルタイムプロセッサとして、車両制御を主なターゲットにした「S32Zファミリー」と「S32Eファミリー」を発表した。NXP、車載プロセッサをTSMCの16nm技術で量産
NXP Semiconductorsは、車載ネットワークプロセッサ「S32G2」とレーダープロセッサ「S32R294」について、TSMCの16nm FinFETプロセス技術を用いて、2021年第2四半期(4〜6月)より量産を始めた。自動車業界の変化から半導体政策まで、NXP和島社長に聞く
2020年10月に、NXP Semiconductorsの日本法人であるNXPジャパンの代表取締役社長に就任した和島正幸氏。自動車分野などでの半導体不足や、それに端を発した半導体政策/投資の加速など、半導体業界に大きな影響を与える出来事を同氏はどう分析しているのだろうか。