WSTSの世界半導体市場規模予測は強気――でも条件がそろえば達成可能か:大山聡の業界スコープ(72)(2/2 ページ)
先日、WSTS(世界半導体市場統計)が2023年秋季の世界半導体市場予測を公表した。今回は、WSTSの予測を見ながら2023年の着地および2024年以降の市況の見通しについて私見を述べる。
メモリは強気の予測
メモリの2023年市場規模は同31.0%減という予測。2023年1月から10月までの実績を見ると同38.5%減、ただし2023年10月にようやくプラス成長に転じた。DRAMもNAND型フラッシュメモリも単価が下げ止まっており、2023年10月には若干ながら大口価格が値上げに転じる動きも見られた。WSTSの予測も順当といえるだろう。現状では各メモリメーカーの生産調整もまだ行われているため、あまり強気な見方をすることはできない。2024年の同44.8%増という予測は決して無理な数字ではないものの、強気の部類に入るだろう。
昨今ではChatGPTに代表される「生成AI」が注目を集めており、AIプロセッサで高いシェアを誇るNVIDIAの業績が大変好調に推移している。AIプロセッサは周囲にHBM(High Bandwidth Memory)と呼ばれる高速DRAMを大量に搭載する必要があり、これがDRAM需要をけん引するのではないか、と期待されている。しかし、NVIDIAにHBMを供給できるのは実質的にSK Hynixだけだ。しかもSK HynixはNVIDIA向けに技術者をアサインする必要があり、AMDなど他のAIプロセッサ向けのサポートをする余裕がないなど、極めてカスタム色の強いビジネスである。AIプロセッサを搭載したAIサーバは現時点でサーバ全体の5%程度、この比率がどんどん増えれば、確かにDRAM需要を押し上げる要因にはなり得るが、あまり効率の良いビジネスではなさそうなので、メモリ市場全体への影響はまだ限定的だろう。
2024年2桁成長のカギは5Gか
全体の結論として、2024年半導体市場成長率13.1%増というWSTSの予測は実現不可能な数字ではないが、強気な部類に入るだろう、というのが筆者の見解である。これを達成するには、第5世代移動通信(5G)サービスの普及が必要ではないだろうか。
国内外の大手通信キャリア各社は、5G通信に必要なインフラを整えており、大手スマホメーカー各社も5G対応製品をすでに出荷している。しかし、4Gに比べて割高な5Gスマホをどうしても買わねばならない理由があるかと言えば、残念ながらそうではない。世界中のどこを探しても、5Gを活用したサービスが実質的に立ち上がっていないので、スマホの本格的な需要に結びついていないのである。
5G通信は、自動運転や遠隔医療には不可欠なインフラとされており、大きな期待がかけられているが、これらはある意味「人の命に関わる」サービスで、実用化にはまだ時間がかかりそうだ。5Gを活用した、もっと手軽で気軽なサービスが世界中のどこかで立ち上がってくれれば、それがスマホやPCの新たな需要を生み出し、ITベンダー各社もデータセンターへの投資を積極的に行うようになるだろう。そうなれば、WSTSの2024年予測など簡単にクリアできるだろうし、2025年にはさらなる市場拡大も期待できそうだ。
生成AIによる半導体需要の活性化を期待する声も聞かれるが、すでに述べたようにその影響はあまり大きくない、というのが筆者の見解である。生成AIだけではPCやスマホの新たな需要を生み出せそうにない。
ただし、生成AIの普及が何らかの5Gサービスの普及のきっかけになれば、話は別である。残念ながら筆者にも具体的なイメージがあるわけではないが、そういうサービスが立ち上がってくれることを切に望んでいる。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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