極低温下で動作可能な量子ビット制御回路を開発:量子コンピュータの大規模化へ
富士通は、量子技術研究機関の「QuTech」とともに、極低温冷凍機に設置したクライオCMOS回路を用いて、ダイヤモンドスピン量子ビットを駆動させることに成功した。大規模な量子コンピュータの実現に向けて、これまで課題となっていた量子ビットと制御回路間の配線を単純化することが可能となる。
制御回路を極低温冷凍機内に設置、量子ビットとの配線を単純化
富士通は2024年2月、デルフト工科大学とオランダ応用科学研究機構(TNO)が共同で設立した量子技術研究機関「QuTech」とともに、極低温冷凍機に設置したクライオCMOS回路を用いて、ダイヤモンドスピン量子ビットを駆動させることに成功したと発表した。大規模な量子コンピュータの実現に向けて、これまで課題となっていた量子ビットと制御回路間の配線を単純化することが可能となる。
量子ビットを正確に動作させるためには、量子ビットの温度を−268℃程度以下という極低温にする必要があるという。ところが、量子を制御する電子回路を極低温下で正確に動作させることは難しく、冷凍機の外に設置するのが一般的であった。このため、大規模な量子コンピュータを実現しようとすれば、配線が複雑化するという課題があった。
富士通は今回、QuTechがこれまで培ってきた、「極低温でも動作するクライオCMOS回路技術」や比較的高温(約4K)で動作するダイヤモンドスピン量子ビットに関する技術を活用した。具体的には、クライオCMOS回路技術を用い、ダイヤモンドスピン量子ビットを駆動するために必要となる「磁場印加回路」や「マイクロ波回路」を新たに設計した。開発した量子ビット制御回路を量子ビットと同じ極低温冷凍機内に設置し、量子ビットを駆動させることに成功した。
今回の研究成果は、2024年2月18〜22日に米国サンフランシスコで開催された国際固体素子回路会議「ISSCC 2024」で、詳細な内容を発表した。
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