新開発のフォトニック結晶レーザー 衛星間通信などへの応用に期待:5Wの高出力と1kHzの狭線幅を実現(2/2 ページ)
京都大学と三菱電機は、5W級の高い出力と1kHzという狭い固有スペクトル線幅を両立させた「フォトニック結晶レーザー(PCSEL)」を開発した。宇宙空間における衛星間通信や衛星搭載ライダーなどへの応用に期待する。
高出力動作と狭線幅動作を両立させたフォトニック結晶構造
フォトニック結晶構造のチューニングも行った。フォトニック結晶は二重格子構造となっており、2つの空孔の距離(d)と大きさ(x)を調整することで、フォトニック結晶面内における光波の結合を制御し、面内損失および放射損失を独立して制御できる。
面内損失が大きいと素子内部の光子数が減少して線幅の増大や、自己変化による不安定化を招く。逆に面内損失を小さくしすぎると高次モードが発生し、線幅が増大する可能性がある。このため、面内損失を適切に設定する必要がある。同時に、放射損失も適切な値に設定しなければならないことが分かった。
こうした研究成果を踏まえ、今回は数値計算を用いて設計を行い、高出力動作と狭線幅動作を両立させたフォトニック結晶構造を見いだすことに成功した。
設計した素子を試作し、室温連続動作させた際の電流−光出力特性を測定した。この結果、電流8Aで5Wの光出力が得られた。また、発振波長940nmにおいて、バックグラウンドの強度に対し72dBという極めて高い強度で、単一波長発振していることを確認した。
さらに、周波数雑音スペクトルを測定したところ、106Hz以下の低い周波数領域では、測定系の温度ゆらぎなど、ゆるやかに時間変化する雑音や電源回路由来の共振状の雑音などが見られた。これに対し、106Hz以上の高い周波数領域では、周波数に対し一定強度の雑音が確認された。
この一定雑音が半導体レーザー固有のスペクトル線幅(自然放出雑音)であり、この値から見積もったスペクトル線幅は、測定限界の1kHz程度であった。
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