「世界初」半導体製造工程に量子技術を導入、生産効率を改善:ロームが実証完了
ロームはQuanmaticと協働で、半導体製造工程の一部であるEDS工程に量子技術を試験導入し、製造工程における組み合わせ最適化を目指す実証を終えた。生産効率改善において一定の成果が得られたといい、2024年4月に本格導入を目指す。
ロームは2023年12月5日、半導体製造工程の一部であるEDS(Electrical Die Sorting)工程に量子技術を試験導入して製造工程における組み合わせ最適化を目指す実証が完了したと発表した。同実証で生産効率改善に一定の成果が得られたことから、ロームは2024年4月に本格導入を目指すという。なお、半導体製造工場の大規模量産ラインにおいて量子技術による製造工程の最適化を実証したことは、「世界初の成果」(ローム)だという。
この実証は量子関連技術スタートアップのQuanmaticと協働して行ったもの。同社は、早稲田大学教授の戸川望氏の研究シーズをもとに慶應義塾大学教授の田中宗准氏らが設立したスタートアップで、早稲田大学/慶應義塾大学の研究に基づく量子計算技術効率化のプロダクト群や、量子と古典計算技術を用いた計算フレームワーク、専門的な定式化技術を有している。ロームとQuanmaticは共同で記者発表会を実施し、量子技術の研究開発の現状や今回の実証について説明した。
期待が集まる量子技術 半導体製造への導入は「困難だった」
近年、ムーアの法則の限界が指摘される一方で、生成AI(人工知能)や機械学習関連技術の進展によって、コンピュータに求められる処理能力は高まっている。そこで期待が集まるのが量子コンピューティング技術だ。
量子コンピュータは汎用性が高い「量子ゲート方式」と組み合わせ最適化に特化した「量子アニーリング方式」の2種類に大別される。量子アニーリング方式は物流業界の配送ルート最適化などの分野で導入が進む一方、半導体業界での導入は従来のコンピュータでも近似的に演算できる規模の工程のみにとどまっていた。大規模な製造工程では組み合わせパターンが膨大になるほか、需要変動の大きさなどから制約条件が多数あり、最適解を得ることが難しいためだ。
ウエハーの状態で電気的特性を検査するEDS工程についても、製造するデバイスやテスト装置、テスト条件などの組み合わせ数は膨大で、「工程の一部であっても、製造工程を最適化する解の導出は非常に困難だった」(ローム)という。そのため、従来は基本的な計算ルールをもとに、蓄積した知見やノウハウを活用して熟練した技術者がオペレーションを行うことが一般的だった。
プロトタイプの試験導入で稼働率などの指標が数パーセント向上
こうした状況下で、ロームとQuanmaticは、2023年1月から量子アニーリング方式を用いたEDS工程におけるオペレーションシステムの検討を開始した。Quanmaticが有する専門的な技術に、これまでロームが蓄積してきた知見とノウハウ、各種データを融合させることで、2023年9月にプロトタイプの構築に成功したという。ロームの担当者は「限られた資源を活用してアウトプットを最大化することは、ずっと取り組んできた大きな課題だ。さまざまな制約事項を組み合わせて短時間で最適解を得られる量子アニーリング方式の技術は、ロームにとって大きな出会いだった」と語る。
このプロトタイプをロームの国内外の工場に試験導入し検証した結果、熟練技術者のノウハウでオペレーションを行う場合と比べ、稼働率、納期遅延率などの指標をそれぞれ数パーセントずつ改善できるという実証成果が得られたという。アルゴリズム化によって計算時間も大幅に短縮されるため、製造条件の変更に合わせたタイムリーかつ最適なオペレーションが可能になるとしている。
ロームは「これまで経験豊かなスタッフ、『匠』の世界に依存していたものを、短時間で再現できることは大きな前進だ」とした。
今後、ロームとQuanmaticは海外工場でこのオペレーションシステムの試験運用を重ねることで精度向上を図り、2024年4月の本格導入を目指す。ロームはDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、このシステムの社内での導入拡大を検討しているという。
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