さまざまな組成のTMD単層ナノチューブを合成:BNナノチューブをテンプレートに
東京都立大学らの研究チームは、窒化ホウ素(BN)ナノチューブの外壁や内壁をテンプレート(基板)に用い、さまざまな組成の「TMD(遷移金属ダイカルコゲナイド)単層ナノチューブ」を合成することに成功し、その構造的な特徴も解明した。効率が高い太陽電池などに向けた材料設計の指針になるとみられる。
効率が高い太陽電池などに向けた材料設計に期待
東京都立大学と産業技術総合研究所(産総研)、東北大学、大阪大学の研究チームは2023年10月、窒化ホウ素(BN)ナノチューブの外壁や内壁をテンプレート(基板)に用い、さまざまな組成の「TMD(遷移金属ダイカルコゲナイド)単層ナノチューブ」を合成することに成功し、その構造的な特徴も解明したと発表した。効率が高い太陽電池などに向けた材料設計の指針になるとみられる。
グラフェンを円筒状に丸めたカーボンナノチューブ(CNT)は、巻き方(カイラリティー)によって「金属」にも「半導体」にもなるナノ材料である。TMDナノチューブは、CNTに続く新たなナノチューブとして注目されている。ところが、現在主流となっている合成法では「多層ナノチューブ」しか得られず、基礎的な物性を実験的に確認するのが難しかったという。
こうした中で研究チームは2022年に、BNナノチューブの外壁をテンプレートに用い、「MoS2(二硫化モリブデン)単層ナノチューブ」を合成することに成功した。しかしこの方法だと、合成できる単層TMDナノチューブは、MoS2に限られていた。
研究チームは今回、化学気相成長法(CVD法)を用い、BNナノチューブの外壁や内壁を基板として結晶成長させた。原料の種類や供給方法、成長条件を調整することで、さまざまな組成のTMDナノチューブを合成することに成功した。具体的には、セレン化物(MoSe2、WSe2)や2種類の遷移金属を含む混晶(Mo1−xWxS2)、単層の内側と外側でカルコゲンの組成が異なる「ヤヌス構造」(MoS2(1−x)Se2x)である。
また、BNナノチューブの外壁だけでなく、内壁もテンプレートに用いることで、直径が最小3nmという極めて細いTMDナノチューブを成長させることが可能なことを実証した。微小径のTMDナノチューブは理論上、量子閉じ込め効果が顕著となり、二次元シートには見られない電子物性が現れると予想されている。
研究チームは、得られたナノチューブの表面を透過電子顕微鏡で詳細に観察し、カイラリティーを解析した。この結果、テンプレートの直径や原子配列に関係なく、ランダムなカイラリティー分布を示すことが分かった。
今回の研究成果は、東京都立大学理学研究科物理学専攻の中西勇介助教、古澤慎平大学院生、田中拓光大学院生、蓬田陽平助教、柳和宏教授、Wenjin Zhang特任助教、宮田耕充准教授、産業技術総合研究所ナノ材料研究部門の佐藤雄太主任研究員、東北大学材料科学高等研究所/大学院工学研究科電子工学専攻の中條博史研究員、青木颯馬大学院生、加藤俊顕准教授、大阪大学産業科学研究所の末永和知教授らによるものである。
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