ザインら、毎秒20Gビットの高速情報伝送を実現:ミックスドシグナル技術を活用
ザインエレクトロニクスと情報通信研究機構(NICT)および広島大学は、ミックスドシグナルベースバンド復調回路を開発、これを搭載した受信用半導体で、20Gビット/秒QPSK変調された電気信号を受信することに成功した。ミックスドシグナル技術を用いることで、ベースバンド復調回路の電力消費を大幅に削減できるという。
低分解能A-Dコンと小規模DSPでベースバンド復調回路を構成
ザインエレクトロニクスと情報通信研究機構(NICT)および広島大学は2024年4月、ミックスドシグナルベースバンド復調回路を開発、これを搭載した受信用半導体で、20Gビット/秒QPSK変調された電気信号を受信することに成功したと発表した。ミックスドシグナル技術を用いたことで、ベースバンド復調回路の電力消費を大幅に削減できたという。
無線通信に用いるベースバンド復調回路は一般的に、高速で高分解能のA-Dコンバーターと大規模なDSPを組み合わせて構成する場合が多い。このため、数十Gビット/秒を超える高速通信向けベースバンド復調回路を実現するには、搭載するA-DコンバーターやDSPにも高い性能が要求され、電力効率が悪くなるという課題があった。
ザインエレクトロニクスらの研究グループは今回、ミックスドシグナル技術を用い、高速で低分解能のA-Dコンバーターと小規模のDSPで構成するベースバンド復調回路を共同で開発した。そして、このベースバンド復調回路を搭載した受信用半導体とロジック回路を搭載したFPGAを開発し、20Gビット/秒QPSK変調された電気信号を受信できることを確認した。将来的には、FPGAで実現している機能をベースバンド受信用半導体に統合する計画である。
開発した半導体回路は、キャリア周波数をシンボル・キャリア周波数の整数倍にすることで簡素化した。そしてキャリア、タイミングとデータ復元機能を統合する独自の回路構成(ミックスドシグナルコスタス・ループ)によって、超高速情報伝送を実現した。なお、半導体回路に実装したのは8相タイムインターリーブ(回路全体で出力を8倍速化)毎秒40Gサンプルの3ビットA-Dコンバーター。これにFPGAを組み合わせてデータを復元した。
今回の共同開発では、ザインエレクトロニクスが設計・測定全般を、広島大学大学院先進理工系科学研究科の藤島実教授らが設計・測定についての議論を、NICTは測定についての議論や測定補助を、それぞれ担当した。
研究成果は、2024年4月21〜24日に米国コロラド州デンバーで開催された2024 IEEE Custom Integrated Circuits Conference(CICC)で、その詳細を発表した。
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