「ニボシの中身がよく見える」 直接変換型X線イメージセンサーの作製技術を確立:TlBrを用いて高精細、高感度を実現
東京大学と東北大学はジャパンディスプレイ(JDI)と協力し、臭化タリウム(TlBr)を用いて、高精細・高感度の「直接変換型X線イメージセンサー」を作製する手法を確立した。超大型X線イメージセンサーやフレキシブルセンサーなどに適用していく。
蒸着技術を用い、高品質の結晶膜を広範囲に形成
東京大学と東北大学は2024年5月、ジャパンディスプレイ(JDI)と協力し、臭化タリウム(TlBr)を用いて、高精細・高感度の「直接変換型X線イメージセンサー」を作製する手法を確立したと発表した。超大型X線イメージセンサーやフレキシブルセンサーなどに適用していく。
TlBrは、原子番号81番のタリウム(Tl)と原子番号35番の臭素(Br)を組み合わせた化合物半導体。7.56g/cm3という極めて高い密度を有するため、X線やガンマ線に対し高い感度が得られるという。そこで研究グループは、X線の直接変換材料として、融点が460℃と比較的低いTlBrに着目した。
実験では、TlBrを用いて蒸着手法によるX線イメージセンサーの作製と、結晶膜の高品質化に取り組んだ。これにより、TlBrを用いて形成した50μm厚の変換膜が、1010Ωcm以上という高い抵抗率を示し、低い暗電流で動作可能なことを確認した。
また、235μmピクセルのJDI製LTPS(Low Temperature Poly Silicon)型FPD(Flat Panel Detector)上に臭化タリウム膜を形成したところ、250μmの空間解像度が得られることが分かった。さらに、開発したX線イメージセンサーを用いてニボシの画像を検出し、内部構造を高精細に可視化できることを確認した。
今回の研究は、東京大学大学院工学系研究科のMoh Hamdan大学院生(現在は学術専門職員)、島添健次准教授、東北大学の野上光博助手、人見啓太朗准教授らとJDIが協力して行った。
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