東京大ら、有機半導体の電子ドーピング手法を開発:大気下での寿命を約100倍も向上
東京大学と物質・材料研究機構(NIMS)、ジョージア工科大学、コロラド大学ボルダー校からなる国際共同研究グループは、還元剤と分子性カチオンが協奏的に作用する有機半導体の電子ドーピング手法を開発した。同手法を用いて分子性カチオンを導入した材料は、大気下においてドーピング状態の寿命を従来手法より約100倍も長くできることが分かった。
安定性を向上させる分子性カチオン「dMesIM+」を発見
東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹谷純一教授らと物質・材料研究機構(NIMS)、米ジョージア工科大学、米コロラド大学ボルダー校からなる国際共同研究グループは2024年5月、還元剤と分子性カチオンが協奏的に作用する有機半導体の電子ドーピング手法を開発したと発表した。同手法を用いて分子性カチオンを導入した材料は、大気下においてドーピング状態の寿命を従来手法より約100倍も長くできることが分かった。
有機半導体は、フレキシブルなセンサーや電子回路、太陽電池といったデバイスを印刷技術で製造できる。このため、次世代のエレクトロニクス材料として注目されている。研究グループはこれまで、イオン交換によりp型ホールドーピングの安定化を実現してきた。今回、n型電子ドーピングについても、同じアプローチが有効かどうかを検証した。
今回開発した手法は、還元剤として作用する「コバルトセン」に加え、安定した分子性カチオンを含む塩を溶かした溶液を用いてドーピング処理を行う。有機半導体にはπ共役を有する高分子を用いた。
具体的には、コバルトセンから有機半導体に電子が移動する還元反応が起こり、負に帯電した有機半導体とコバルトセン由来のカチオンがイオン対を形成する。そして、コバルトセン由来のカチオンは、添加した他の安定な分子性カチオン(X+)に交換される。この手法によって、安定した分子性カチオンを有機半導体薄膜に導入する電子ドーピングに成功した。
開発した手法を用いて、ドーピング状態をさらに安定させる材料を探索した結果、分子性カチオン「dMesIM+」を発見した。ドーピングされた薄膜の光吸収を大気下で繰り返し測定したところ、ドーピング状態の寿命は従来手法に比べて、100倍程度も長くなることを確認した。ドーピングされた薄膜は、仕事関数が約3.9eVであることも明らかになった。
寿命が長くなることについて研究グループは、「dMesIM+が安定な分子性カチオンであること」に加え、「失活を促進する水がdMesIM+を導入した薄膜には吸着しにくいため」だと考えている。その要因として、「dMesIM+が疎水性の高い分子であること」と、「dMesIM+を導入した薄膜が特徴的なパッキング構造を有すること」を挙げた。
上図は開発した有機半導体のn型ドーピング手法の模式図と、用いた有機半導体やコバルトセン、さまざまな分子性カチオンの分子構造。下図は大気下20℃、湿度80%という環境下で行ったドーピングによる光吸収の変化量および、dMesIM+を導入した薄膜におけるX線散乱像[クリックで拡大] 出所:東京大学他
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