室温で強磁性を示す希土類酸化物を発見、スピントロニクス材料として期待:キュリー温度は最高303K
東北大学や東京都立大学、東京大学らによる研究グループは、準安定で高純度の酸化ガドリニウム(GdO)薄膜の合成に成功。このGdOが強磁性体で、キュリー温度は最高303K(30℃)であることを確認した。
GdOとCaF2の間に酸化カルシウム層を挿入、格子定数差をなるべく解消
東北大学や東京都立大学、東京大学らによる研究グループは2024年5月、準安定で高純度の酸化ガドリニウム(GdO)薄膜の合成に成功。このGdOが強磁性体で、キュリー温度は最高303K(30℃)であることを確認したと発表した。異常ホール効果を示すことから、スピントロニクス材料として期待する。
強磁性体は次世代メモリに向けたスピンロニクス材料として注目されている。一般的に、希土類元素R(R:Sc、Y、ランタノイド)の安定な酸化物である「R2O3」は、非磁性の物質が多く絶縁体のため、電気や磁気の性質を活用する機能材料としては用いられないという。
こうした中で、単純な岩塩構造で準安定な酸化物「RO」を合成できることが分かってきた。このROは高い電気伝導性や磁性を発現する。研究グループはこれまで、ROの一種であるGdOの薄膜合成に成功し、強磁性体であることを確認してきた。しかし、不純物の影響もあってキュリー温度は276K(3℃)にとどまり、室温では利用できなかった。
これまで合成したGdO薄膜は、フッ化カルシウム(CaF2)基板の上に、そのまま成長させていた。ところが、格子定数の差が大きいためGdO薄膜の結晶性が悪く、不純物であるGd2O3が混入していた。今回は、格子定数の差をできるだけ解消することとした。
具体的には、GdOとCaF2の間に薄い酸化カルシウム(CaO)層を挿入した。これにより、GdO薄膜の結晶性が向上、不純物のGd2O3も大幅に削減できた。この結果、キュリー温度をこれまでに比べ約30Kも高い、303K(30℃)まで高めることができた。同時に、電気伝導性も向上し、異常ホール効果を観測できたという。
今後は、ユーロピウム(Eu)より電子が1個だけ多いGdの酸化物において、今回のように「高いキュリー温度がなぜ生じたか」を解明していく方針である。
今回の研究成果は、東北大学大学院理学研究科の福村知昭教授をはじめ、東京都立大学大学院理学研究科の岡大地准教授、東北大学大学院工学研究科・材料科学高等研究所(WPI-AIMR)・国際集積エレクトロニクス研究開発センター・先端スピントロニクス研究開発センター、東京大学理学系研究科らの研究グループによるものである。
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