ダイヤモンド量子センサー、低周波磁場でも高感度:磁気シールドレスで脳活動を計測
東京工業大学と東京大学、物質・材料研究機構(NIMS)および量子科学技術研究開発機構(QST)らによる研究グループは、ダイヤモンド中の窒素−空孔中心(NVセンター)を利用したダイヤモンド量子センサーにおいて、5〜100Hzの低周波数領域でも9.4pT/√Hzという高い磁場感度を実現した。
スピン位相緩和時間が長い、高品質のダイヤモンドを高温高圧法で合成
東京工業大学と東京大学、物質・材料研究機構(NIMS)および量子科学技術研究開発機構(QST)らによる研究グループは2024年6月、ダイヤモンド中の窒素-空孔中心(NVセンター)を利用したダイヤモンド量子センサーにおいて、5〜100Hzの低周波数領域でも9.4pT/√Hzという高い磁場感度を実現したと発表した。磁気シールドや冷却装置を用いなくても脳活動の計測が可能となる。
神経活動の磁気的な計測は、電気的にとらえる脳波計測に比べ、その位置や時間をより高精度に推定できる。ところが、脳磁計測にはこれまで磁気シールドや冷却装置など、大型でコスト高となる機器が必要であった。そこで注目されているのが、量子センサーを用いた新たな計測手法である。ただ、使用するセンサーには微小な信号を計測できる極めて高い磁場感度や、低周波領域への対応が求められていた。
研究グループは今回、測定対象に近づけられるダイヤモンド量子センサーを開発した。NVセンターからの蛍光を効率よく集める工夫を行うとともに、センサーを構成する部品を一体化した。また、スピン位相緩和時間の長い高品質なダイヤモンドを高温高圧法で合成したことで、磁場感度を高めことに成功。ノイズも限界程度まで低減した。
この結果、5〜100Hzの低周波数領域でも9.4pT/√Hzという高い磁場感度を実現した。低周波数領域での値としては、磁束集中器を用いないダイヤモンド量子センサー単体の感度で最も高い値だという。しかも、最低200分間は高い磁場感度で動作することを確認している。約40分間信号を平均することで検出可能な最小の磁場は、0.3pTとなる。
今回の研究は、東京工業大学工学院電気電子系の関口直太特任准教授、岩崎孝之准教授、波多野睦子教授、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の伏見幹史特任助教、関野正樹教授、物質・材料研究機構(NIMS)電子・光機能材料研究センター半導体欠陥制御グループの寺地徳之グループリーダー、量子科学技術研究開発機構(QST)高崎量子技術基盤研究所量子機能創製研究センターの大島武センター長ら、文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププロジェクト(Q-LEAP)の研究グループが行った。
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