サブテラヘルツ帯CMOS送受信用IC、東工大らが開発:毎秒640Gビットの無線伝送に成功
東京工業大学と情報通信研究機構(NICT)の研究チームは、サブテラヘルツ帯CMOS送受信用ICを開発し、毎秒640Gビットの無線伝送に成功した。遠隔医療や自動運転など新サービスへの応用が期待される。
遠隔医療や自動運転など新サービスへの応用に期待
東京工業大学工学院電気電子系の岡田健一教授と情報通信研究機構(NICT)の研究チームは2024年6月、サブテラヘルツ帯CMOS送受信用ICを開発し、毎秒640Gビットの無線伝送に成功したと発表した。遠隔医療や自動運転など新サービスへの応用が期待される。
研究チームが開発したのは、D帯(110G〜170GHz)向けの「送信用IC」と「受信用IC」からなるチップセット。65nmシリコンCMOSプロセス技術を採用することで、製造コストの削減などを可能にした。これらのICには、高出力の増幅器(PA)/低雑音の増幅器(LNA)、周波数変換器(Mixer)、分布型増幅器(DA)および、周波数逓倍器(Quadrature)などを集積した。チップの外形寸法は、送信用ICが1.87×3.30mm、受信用ICが1.65×2.60mmだ。
研究チームは今回、サブテラヘルツ帯の優位性を生かし、広帯域で高SNRを実現するため、回路設計を工夫した。具体的には、「8パス低Q電力合成による電力増幅器」「2パス低Q電力合成による低雑音増幅器」「広帯域インピーダンス変換ミキサー」「コモンソース型のカスケード分布型増幅器」などを開発し採用した。試作したCMOS送受信ICを評価した結果、56GHzという広い帯域幅(114GHzから170GHzまで)にわたり、高いSNRが達成されていることを確認した。
作製したICチップは、プリント基板上にフリップチップ実装している。プリント基板上には伝送線路から導波管へ変換する機構を設けていて、外部アンテナとも比較的容易に接続して無線伝送を評価できるという。変換部の損失は約4dBに抑えた。
実験では、開発したD帯送受信機に利得が25dBiのアンテナを接続し、電波を実際に発射して伝送速度などを測定した。性能評価には、36cmの距離でシンボルレート40Gbaud、32QAMの変調信号を用いた。
測定したデータから、10-3以下のビットエラーレート(BER)達成に必要な変調精度(EVM(RMS)<-19.6dB)を満たしていることが分かった。これは伝送速度毎秒200Gビットに相当し、現行の5G(第5世代移動通信)に比べ、10倍以上の速度に相当するという。
垂直・水平偏波多重を用い、4×4MIMO測定も行った。これにより、16QAM変調時に4チャネルそれぞれ毎秒160Gビットの伝送速度を確認、合計で毎秒640Gビットを達成した。
36cmという近距離での無線伝送測定の結果。左は16、32QAM変調時の変調精度(EVM)、コンスタレーション、スペクトル。右は変調信号とシンボルレートを変えたときの伝送速度とEVMの関係[クリックで拡大] 出所:東京工大
さらに、同じD帯送受信機に利得が43dBiのアンテナを接続し、NICTが保有する長距離伝送用の測定環境などを用いて、見通し内15mの距離で無線伝送測定を行った。この結果、16QAM変調時に毎秒120Gビットの伝送速度が得られたという。
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