5.7GHz帯無線給電で動作するミリ波帯5G中継器:離れた周波数に同時対応のIC開発
東京工業大学は、国内で利用可能な5.7GHz帯の無線給電によって動作する「ミリ波帯5G(第5世代移動通信)中継器」を開発したと発表した。この中継器には、5.7GHz帯無線電力伝送と28GHz帯5G通信に同時対応できるICチップを搭載している。
整流器型4次サブハーモニックミキサーを新たに考案
東京工業大学工学院電気電子系の加藤星凪大学院生、同科学技術創成研究院未来産業技術研究所の白根篤史准教授、同工学院電気電子系の岡田健一教授は2024年6月、国内で利用可能な5.7GHz帯の無線給電によって動作する「ミリ波帯5G(第5世代移動通信)中継器」を開発したと発表した。この中継器には、5.7GHz帯無線電力伝送と28GHz帯5G通信に同時対応できるICチップを搭載している。
研究グループはこれまで、無線電力伝送に24GHz帯を、5G通信に28GHz帯をそれぞれ用いる中継器は開発してきた。ところが、24GHz帯は国内で無線電力伝送への利用が認められておらず、伝送距離が短いという課題もあった。
今回開発したミリ波帯5G中継器は、5G無線通信に28GHz帯を、無線電力伝送用には国内で認可されている5.7GHz帯を、それぞれ用いた。中継器で受信したミリ波帯5Gの無線通信信号は、配線による損失や増幅器の消費電力を抑えるため、いったん5.2GHzの中間周波数に変換する。5.2GHzに変換された信号を再び28GHz帯に戻し、フェーズドアレイでビームフォーミングを行い、送信する仕組みだ。同時に、5.7GHz帯を用いて無線電力伝送を行い、無線通信に必要となる電力を供給する。
無線電力伝送に5.7GHz帯を用いるため、新たに整流器型4次サブハーモニックミキサーを考案し採用した。ローカル信号(5.7GHz)の4倍(22.8GHz)が28GHzから引かれることで5.2GHzへの周波数変換を実現した。しかも、整流器型サブハーモニックミキサーは、整流器とミキサーの役割を担うトランジスタを分けることによって、トランジスタサイズとバイアス電圧をそれぞれの動作に最適化できる構成とした。これにより、RF-DC変換効率と周波数変換利得を同時に最大化することが可能となった。
試作した中継器には、シリコンCMOSプロセスを用いて製造した無線ICを2個搭載している。各ICには4個の28GHz帯アンテナと1個の5.7GHz帯アンテナを接続した。実験で、28GHz帯から5.2GHz帯への周波数変換を確認。各アンテナ素子における位相制御を行うことでビームフォーミングが可能であることも分かった。
また、ミリ波5G準拠の変調信号を用いて、OTAの無線通信測定を行ったところ、受信/送信ともに、5G NR MCS19の64QAMの無線通信に成功した。5.7GHz帯を用いた無線電力伝送の測定では、最大電力変換効率55%で、整流器1個当たり6.5mWの直流電力が生成できることを確認した。
研究グループは、「ミリ波5G通信用アンテナが256素子の中継器であれば、サイズが約10cm角となり、中継器全体で0.4W程度の電力を生成できる」とみている。
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