柔らかくて薄い導電性生体電極、CNTを用いて開発:違和感なく生体筋の活動状況を測定
東京工業大学は、伸縮性と透湿性を兼ね備えた、表面筋電位測定用の「導電性生体電極」を開発した。エラストマー超薄膜上に単層カーボンナノチューブ(CNT)を塗布して作成したもの。装着者は違和感なく、生体筋の活動状態をリアルタイムに長時間測定することが可能となる。
エラストマー超薄膜上に単層カーボンナノチューブを塗布
東京工業大学生命理工学院生命理工学系の堀井辰衛特任助教、山下佳威学士課程4年生(研究当時)、Marimo Ito大学院生(研究当時)、岡田慧大学院生(研究当時)および、藤枝俊宣准教授らの研究チームは2024年6月、伸縮性と透湿性を兼ね備えた、表面筋電位測定用の「導電性生体電極」を開発したと発表した。装着者は違和感なく、生体筋の活動状態をリアルタイムに長時間測定することが可能となる。
研究チームは今回、グラビアコート法を用い、厚みが約360nmのエラストマー超薄膜を作製した。この薄膜上に単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を含む繊維状の水性インクを塗布し、層の平均厚みが約70nmという繊維ネットワークを形成させて、導電性伸縮超薄膜を作製した。
作製した導電性伸縮超薄膜の電気特性などを調べた。シート抵抗値は導電性高分子「PEDOT:PSS」(電気を通すプラスチック)を用いた従来の導電性超薄膜と同程度(0.6kΩsq-1)であった。また、弾性率は86MPa、切断伸度は386%となり、PEDOT:PSSを塗布した薄膜に比べて柔らかく、伸びやすいことが分かった。
透湿性についても調べた。膜厚210nmのエラストマー超薄膜を桐山濾紙に貼り付けて測定したところ、水蒸気透過率は6198gm-2(2h)-1であった。この値は濾紙自体の透過率に匹敵するという。SWCNTを塗布した導電性伸縮超薄膜(濾紙に貼付した状態)は、5183gm-2(2h)-1となった。計算により導電性伸縮超薄膜自体の水蒸気透過率を求めたところ28316gm-2(2h)-1であった。この値は、人間の表皮の水蒸気透過率よりも2桁程度大きい値だという。
開発した導電性伸縮超薄膜は、接着剤を使わずに右腕前腕へ貼り付け、表面筋電位測定ユニットに接続した。実験では、右手でトレーニング用のグリッパーをしっかり握り、「握る」「解放する」をそれぞれ5秒ずつ、5回繰り返した時の表面筋電位を測定した。この結果、市販ゲル電極に匹敵する信号/ノイズ比となり、生体電極として利用できることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 5.7GHz帯無線給電で動作するミリ波帯5G中継器
東京工業大学は、国内で利用可能な5.7GHz帯の無線給電によって動作する「ミリ波帯5G(第5世代移動通信)中継器」を開発したと発表した。この中継器には、5.7GHz帯無線電力伝送と28GHz帯5G通信に同時対応できるICチップを搭載している。 - 無線給電のミリ波帯フェーズドアレイ無線機を開発、市販の半導体用い
東京工業大学は、市販の半導体デバイスを用い、データと電力を同時に伝送できる「ミリ波帯フェーズドアレイ無線機」を開発した。中継器に対し無線給電を行うことで、ミリ波帯5Gの通信エリアを容易に拡大できる。 - サブテラヘルツ帯CMOS送受信用IC、東工大らが開発
東京工業大学と情報通信研究機構(NICT)の研究チームは、サブテラヘルツ帯CMOS送受信用ICを開発し、毎秒640Gビットの無線伝送に成功した。遠隔医療や自動運転など新サービスへの応用が期待される。 - ダイヤモンド量子センサー、低周波磁場でも高感度
東京工業大学と東京大学、物質・材料研究機構(NIMS)および量子科学技術研究開発機構(QST)らによる研究グループは、ダイヤモンド中の窒素−空孔中心(NVセンター)を利用したダイヤモンド量子センサーにおいて、5〜100Hzの低周波数領域でも9.4pT/√Hzという高い磁場感度を実現した。 - 低次元超伝導体でSiCとの界面に「カルシウム金属層」
東京工業大学と分子科学研究所の研究グループは、グラフェン−カルシウム化合物において、支持基板であるSiC(炭化ケイ素)との界面にカルシウム金属層が形成されることを発見した。金属層の影響で超伝導転移温度が上昇するため、温度耐性に優れた量子コンピュータを実現できるとみている。 - 中低温で高いプロトン伝導度を示す新物質を発見
東京工業大学は、これまでとは異なる設計戦略により、中低温(50〜500℃)で高いプロトン伝導度を示す新物質「BaSc0.8W0.2O2.8」を発見した。中低温で高い性能が得られる「プロトンセラミック燃料電池(PCFC)」の開発につながるとみられる。