AI普及の思わぬ弊害 データセンターの電力問題が深刻化:半導体やシステムの改善が不可欠(2/2 ページ)
AI(人工知能)の発展が進む上で、データセンターの電力消費量に対する懸念が増している。次世代パワー半導体の積極的な採用や、より効率の良いデータセンターアーキテクチャの採用をはじめ、早急な対策が必要になる。
データセンターの増加は住民の反対を招く可能性も
データセンターや暗号通貨ツール、ゲーム機のエネルギー消費量の見積もりを出そうとする人ほとんどいない。この問題には、いわゆる「リバウンド効果」が関係している。コンピュータやスマートフォンなどの電子製品の効率が着実に向上している一方で、最近のAIモデルの進歩によってデータセンターサービスの爆発的な増加が進み、電力需要が高まっている。
IEAによると、一般的なデータセンターの電力需要は、コンピューティングが全体の40%を占めるという。さらに、安定した処理効率に向けたサーバラックの冷却に40%を消費する。残りの20%は、周辺IT機器による消費である。
米国では、2020年のエネルギー法により、連邦政府がデータセンターのエネルギー使用を調査し、その効率化を推進することが義務付けられている。エネルギー省は、半導体の国内生産を支援し、冷却要件を削減する、より効率的なチップの開発に資金を提供している。世界最大のデータセンターが集中するバージニア州の州政府は、持続可能性の向上と炭素排出量の削減を義務付けている。
Krein氏は、「もし来年(2025年)、10カ所、12カ所、さらには15カ所で500MWのデータセンターの話が持ち上がることになれば、規制当局や電力会社から反対の声が上がるのに長くはかからないだろう。都市規模の負荷を特定の地域に課すことはできない。このような非常に大規模な電力需要を集約させるのではなく、地域に分散させる方法を見つけ出す必要がある」と述べている。
半導体の熱効率改善も重要に
ダイヤモンド材料の半導体を手掛けるカリフォルニア州のスタートアップDiamond Quantaの創業者であるAdam Khan氏は、「電力設備の半導体の熱効率を改善すれば、データセンターの総テラワット予算の約10%を節約できる」と指摘する。
Khan氏はEE Timesに対して、「熱的な観点からだけ見ても、ダイヤモンドは、SiC(炭化ケイ素)よりはるかに優れている。シンプルな電源ユニットでN型とP型のドーピングを可能にすることで、この予算を大きく削減できるようになる。NVIDIAのAIチップを置き換えようとは考えていないが、データセンター向けの電源供給チップについては置き換えを狙っている」と語った。
Krein氏は別のアプローチについても語っている。同氏は、「データセンターにはエネルギー需要を削減するためにDC(直流)配電システムが必要である」と述べている。
同氏は、「実際に、従来の60Hzの三相AC(交流)システムを使用する代わりに、サービスエントランスで整流し、例えば400Vや±350VのDCをラックに分配している所もある。これにより、いくつかの電力変換レイヤーを削減し、かなりの量のエネルギーを節約することができる。恐らく、ビル全体の消費電力を10%程度削減できる」と説明している。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- AIによる技術革新を加速させるTSMCの最新技術
TSMCは横浜で開催した顧客向け技術発表会「TSMC Technology Symposium」に合わせ、テクノロジー専門メディア向けの技術説明会を開催した。説明会では、AIイノベーションを加速させるための半導体製造プロセス「TSMC A16」技術や「TSMC System-on-Wafer(TSMC-SoW)」などについて、その概要を紹介した。 - Rapidusの顧客は十分にいるのか 米アナリストの見解
RapidusのCEO(最高経営責任者)である小池淳義氏は、米国EE Timesのインタビューに応じ、2025年4月に2nm世代半導体製造のパイロットラインを稼働予定であると語った。Rapidusを訪問したアナリストによると、TSMCとSamsung Electronicsの新たな競合となるRapidusには、この先まだ大きな障壁が立ちはだかっているという。 - 火花を散らす二大巨頭 AI用プロセッサの競争は激化
2024年6月4〜7日に、台湾で「COMPUTEX TAIPEI 2024」が開催された。AI(人工知能)用プロセッサの開発では、特にNVIDIAとIntel、両社のCEO(最高経営責任者)が火花を散らしていた。 - 「あらゆる所でAIを」 次期CPUで攻勢をかけるIntel
Intelは、2023年9月19〜20日(米国時間)の2日間にわたり、デベロッパー向けカンファレンス「Intel Innovation 2023」を米国カリフォルニア州サンノゼで開催中だ。同社CEO(最高経営責任者)のPat Gelsinger氏が登壇した1日目の基調講演では、AI(人工知能)処理性能の向上を狙う新製品の詳細が多数、発表された。その中から、主に次期CPUを紹介する。 - 2023年SiCパワーデバイス世界売上高ランキング、首位はST
市場調査会社のTrendForceはSiCパワーデバイス市場についての調査を発表した。それによると、2023年の市場シェアはSTMicroelectronicsが32.6%を占めて首位となり、onsemiは23.6%で前年の4位から2位に浮上した。続くInfineon Technologies、Wolfspeed、ロームを含めた上位5社が総売上高の91.9%を占めていたという。