高効率で伸縮性を向上させた有機太陽電池を開発:発電層と透明電極に新材料を採用(2/2 ページ)
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、高いエネルギー変換効率(PCE)を保ちながら、伸縮性を向上させた「有機太陽電池」を開発した。環境エネルギー電源として、ウェアラブルデバイスやe-テキスタイルなどの用途に向ける。
発電層の伸縮性を向上させた工夫
今回は、発電層の伸縮性を向上させる工夫も行った。二つの高効率ドナー材料である「PM6」と「D18」を混ぜて、ランダム三元共重合ポリマードナーの「Ter-D18」を合成し、低分子アクセプター材料の「Y6」と混合して「Ter-D18:Y6」を作製した。
Ter-D18:Y6からなる発電層や透明電極、ポリウレタン基板などで構成される複合フィルムは、PM6:Y6からなる発電層を採用した他の複合フィルムに比べ、発電層の機械的特性が改善されていることを確認した。これらの実験結果から、ION Eを含む伸縮性の高い透明電極は、発電層内の引張ひずみを効果的に非局在化し、再分散することで亀裂の発生と伝播を遅らせるため、伸縮性有機太陽電池全体の機械的完全性が保証されることを実証した。
研究グループは、開発した複合フィルムに液体金属共晶ガリウム−インジウム(EGaIn)の上部電極を設け、電子輸送層フリーの有機太陽電池を作製した。この太陽電池は、伸長前に短絡電流密度(JSC)が25.18mA/cm2、開放電圧(VOC)が0.84V、曲線因子(FF)が0.67、PCEが14.18%という高い初期性能であった。次に、有機太陽電池を伸長ステージに取り付けて伸縮性を調べた。この結果、52%の引張ひずみで初期PCEの80%を維持できたという。
伸縮サイクルにおける伸縮性有機太陽電池の機械的耐久性を評価した。これにより、10%および20%の引張ひずみを100サイクル行った後も、それぞれ初期PCEの95%および85%を維持できることが分かった。
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