マレーシアに「半導体の時代」が到来か:欧米/中国企業が続々
マレーシアは1960年代後半からアセンブリ/テストといった半導体後工程を担い、より高付加価値な前工程の設計業務への移行を長年模索してきた。とうとう今その時が来ていると言えそうだ。欧米や中国の半導体企業の製造拠点が続けてマレーシアに進出している。
マレーシアと台湾は、1960年代後半にIntelなどの米国企業がアセンブリ/テスト工程をアジアにアウトソーシングし始めた当初の拠点の一部だった。それから半世紀以上をかけて台湾が設計と製造の頂点を極めた一方で、マレーシアはアセンブリやパッケージング、テストといった後工程に専念していた。
マレーシアは現在、半導体パッケージング/アセンブリ/テスト市場の13%を占めていて、米国が中国の半導体産業を規制する中で、世界的なIC設計/製造ハブとしての地位確立を目指している。ロイター通信の報道によると、マレーシア政府は半導体産業に1070億米ドルを投入し、IC設計や先進パッケージングの支援、製造設備の充実などを図る計画だという。
マレーシアに集まる欧米/中国企業の製造拠点
アセンブリ/テストといった後工程を担ってきたマレーシアは長年、より高付加価値な前工程の設計業務への移行を模索してきた。そして今、マレーシアは時が味方したと確信している。ここで注目すべきは、マレーシアは米国や欧州だけに目を向けているわけではないということだ。サプライチェーンの多様化を目指す中国企業もまた、マレーシアにパッケージング/アセンブリ拠点やデザインセンターの設立を検討している。
Intelは70億米ドルの先進パッケージング工場を、Infineon Technologiesは54億米ドルのパワー半導体工場をマレーシアに建設している。一方で、ロイター通信によると、米国の制裁を受けた中国の半導体企業も一部ハイエンドチップの組み立て拠点にマレーシアのパートナー企業を選んだという。
かつてHuawei傘下だったxFusion Digital Technologiesは、NationGateと提携してマレーシアでGPUサーバを組み立てることで、米国の制裁を回避している。同様に、チップの組み立てとテストを手掛けるTongFu Microelectronicsは、AMDとの合弁事業でマレーシアに新しい施設を建設している。RISC-Vプロセッサ企業のStarFive Technologyも、ペナンにデザインセンターを設立している。
他国との競争では完璧な実行力が求められる
ただし、インドやベトナムなど、他の国々もチップの設計/製造での利権を狙っているため、マレーシアは半導体市場で高みを目指すという野望に資金を注ぎ込むだけでなく、完璧な実行力が必要になる。
さらに、中国がかなり長い間、後工程の組み立てやテストだけでなく高付加価値の前工程の設計業務に進出しようとしていることにも留意しなくてはいけない。米国の規制を受けて中国の半導体企業がマレーシアに進出することは、アジアの半導体ハブを目指すマレーシアの取り組みに拍車を掛けることにはなるが、それでも減税/補助金/ビザ免除にとどまらない強力な施策が必要だ。
マレーシアには、半導体製造には欠かせない経験豊富な人材と高性能な設備がある。次に求められるのは、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相が演説でほのめかしたように、半導体設計/先進パッケージング領域における有望な新興企業だ。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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