熱いスマホを冷やす アクティブ冷却用半導体チップ:AI搭載で発熱量は増す一方(2/2 ページ)
米xMEMSが開発した冷却用半導体チップにより、スマートフォンなどの小型、薄型デバイスでアクティブ冷却機能を実現できるかもしれない。同社は、MEMSスピーカー向けで培った技術を活用して、冷却用半導体チップを開発した。
MEMSスピーカー向け技術を応用
チップ冷却の原理は、既に市場に出回っている同社のMEMSスピーカーをベースとしている。Housholder氏は、「スピーカーは、超音波変換を利用し、可聴域の音を生成するために空気を動かす」と説明する。
「xMEMSが空気流/冷却用の超音波トランスデューサーに取り組むきっかけとなったのが、オーディオ向けの超音波トランスデューサーである。コイルやマグネットシート、プラスチックダイヤフラムなどをソリッドステートMEMSに置き換えることにより、本質的にファンレスのファンを作ることができるからだ。われわれが開発した上下に動かせるMEMS構造は、空気流の機能を担うため、ファンと同じものとみなされるかもしれないが、動作方法や効率性という点では大きく異なる」(Housholder氏)
また同氏は、「xMEMSが新しい冷却チップで提供するこの新分野には、標準規格が存在しない。しかし、当社の半導体プロセスは、TSMCやBoschなどのファブパートナーと連携してスケーリングすることにより、量産にも対応可能だ。このサプライチェーンは既に機能しており、当社のオーディオ製品向けに大量に出荷している。われわれは、完全に機能する実証されたサプライチェーンを確保しているのだ」と強調する。
約10年前から研究されてきた分野
薄型デバイス向けのアクティブ冷却は新しい分野だといえるが、その研究は少なくとも10年前から行われてきた。米ジョージア工科大学の電気およびコンピュータ工学部(Electrical and Computer Engineering)教授であり、IEEEフェローを務めるSaibal Mukhopadhyay氏は、EE Timesのインタビューの中で、「モバイルデバイスの冷却については、2014年当時にはあまり関心が集まらなかったが、今や重要な問題になりつつある」と述べている。
Mukhopadhyay氏は、「モバイルデバイスの冷却に関する主な課題は、スペースの不足とコストだ。これまでの研究の中には、Qualcommの『Snapdragon』プロセッサで圧電ポンプを使用できるかを検討した取り組みなどがある。これは2016年に実施したものだ」と続けた。
「もう1つの手法としては、熱電変換技術を適用して半導体チップの特定部分を冷却するものがある。熱電デバイスをパッケージ内に集積することで、熱くなっているエリアを電気的に制御し、冷却機能を高めるのだ」(Mukhopadhyay氏)
ジョージア工科大学はこの他にも、半導体チップが高温になると状態を変化させるサーマルキャパシターとして機能する、位相変化材料の研究に取り組んでいるという。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 放熱と冷却の基本的な技術
今回は、放熱と冷却の基本的な技術を解説する。 - ルーム内に冷却器を追加してラックマウントサーバの冷却能力を高める
今回から、データセンターやラックマウントサーバの冷却能力を高める技術を解説する。サーバルーム内に補助となる冷却器を追加する、ラックマウントサーバの排気口で空気を冷やすなどの手法を紹介する。 - GPUの台頭と進化がサーバの消費電力を急増させる
AI(人工知能)対応でCPUとGPUの消費電力は増大している。そのため、既存のデータセンターの冷却に大きな負担がかかっている。 - AIの消費電力、学習よりも推論がはるかに大きな課題
Ampere Computingは、昨今急速に普及している生成AIでは、学習よりも推論の消費電力が大きな課題になると指摘した。「推論のスケールアウトの問題は、確実に破壊的な影響をもたらすだろう」と同氏は懸念を示している。 - AI普及の思わぬ弊害 データセンターの電力問題が深刻化
AI(人工知能)の発展が進む上で、データセンターの電力消費量に対する懸念が増している。次世代パワー半導体の積極的な採用や、より効率の良いデータセンターアーキテクチャの採用をはじめ、早急な対策が必要になる。