東北大ら、高屈折率で近赤外光を通す新材料を発見:自動運転車の実用化を支える
東北大学は日本電気硝子との共同研究により、屈折率が「5」を超えるなど、シリコンに比べ最大で約1.5倍と極めて高く、しかも近赤外光(波長800〜1200nm)を通す透明な新材料を発見した。
車両と周囲にある物体との距離を精度よくリアルタイムに測定
東北大学大学院工学研究科の石井暁大助教と高村仁教授らによる研究グループは2024年10月、日本電気硝子との共同研究により、屈折率が「5」を超えるなど、シリコンに比べ最大で約1.5倍と極めて高く、しかも近赤外光(波長800〜1200nm)を通す透明な新材料を発見したと発表した。
近赤外光を活用して周囲にある物体との距離を高精度かつリアルタイムに測定できる技術が、自動運転車の実用化に向けて注目されている。ただ、近赤外光は環境光によるノイズに弱く、誤認識を防ぐには不要な光を遮断するための光学フィルターが必要となる。ところが、現行の光学フィルターでは視野角が狭く、これを補うには新たなコストが発生するなど、課題があった。
近赤外光センシングに用いる光学フィルターは、高屈折率と低屈折率の透明材料をナノスケールで交互に積層し作製する。近赤外域における高屈折率の透明材料として現在は、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)が用いられている。ところが、視野を広げるためにはセンサーを高速で回転させるなどの工夫が必要であった。
そこで今回、より広い視野角が得られ、より高い屈折率を有する透明な材料の開発に取り組んだ。求める材料を第一原理計算により探索した結果、ハーフホイスラー合金と呼ばれる材料群を発見した。屈折率が最大「5」を超える透明材料で、シリコンの屈折率(約3.4)に比べ、その値は約1.5倍である。
さらに研究グループは、材料の透明性を示すバンドギャップが、金属原子の有効核電荷とサイズによって決定されることを明らかにした。実験でハーフホイスラー型の TiCoSb薄膜を合成したところ、屈折率は計算値と一致し「4」を超えた。
開発した超高屈折率材料の透明性をさらに高めるためには、原子スケールでの精密な欠陥制御が必要なことも分かった。そこで今後は、欠陥制御技術を確立しつつ、超高屈折率材料を用いた光学フィルターの開発に取り組む予定である。
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