ルネサスの第5世代「R-Car」、第1弾は3nm採用で最高レベルの性能実現:27年下期に量産開始へ(2/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクスが車載SoC「R-Car」第5世代品の第1弾となるマルチドメインSoCを発表した。「業界最高レベル」(同社)の高性能を備えるとともに、TSMCの車載用3nmプロセス採用で低消費電力化も実現した。
400TOPSのAI機能や4TFLOPSのGPU搭載、チップレットでさらに向上
R-Car X5Hは第5世代R-Carの第1弾で、同ファミリーのハイエンド品として位置付けられる製品だ(X5HのHはHighを意味する)。具体的には、アプリケーション処理用に32個のArm Cortex-A720AE CPUコアを搭載し、1000k DMIPS以上の性能を発揮する。また、リアルタイム処理用のCortex-R52 CPUコアも6個搭載し、60k DMIPS以上の性能を実現。外付けマイコン無しでASIL-Dを実現可能だとしている。最大400TOPSのAIアクセラレーターを備える他、最大4TFLOPSのGPUの搭載によってより多くのカメラ/グラフィックスの統合も可能だ。
R-Car X5Hでは、強力なコンピューティング機能やAI機能、グラフィック処理、ディスプレイ、メディアストリーミングのサポート、リアルタイム処理などを1チップに統合したことで、次世代の自動運転やIVI、ゲートウェイアプリケーションに対応できる。
さらにR-Car X5Hでは、チップレット技術を適用。標準規格UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)に準拠していて、2つのUCIeインターコネクトを用いて外付けのNPUチップレットおよびGPUチップレットを集積するマルチダイシステムとすることで、さらなる演算能力向上が実現できるという。ルネサスは、API(Application Programming Interface)も提供するといい、外付けチップレットは、ルネサス以外のUCIe対応チップレットも対応可能だ。Bhan氏は、「このモデルとアプローチに加えて、2.0から2.5、3Dパッケージングまでを含むパッケージ技術の進歩のロードマップも提供する。これにより、R-Car X5Hが構築できるさまざまなレベルのパフォーマンスが提供される」とも語っていた。
TSMCの3nmプロセス採用で「クラス最高の電力効率」
R-Car X5Hは、TSMCの3nmプロセス(N3A)の採用によって、クラス最高の電力効率を実現。5nmプロセスで設計されたデバイスより消費電力を30〜35%低減するという。同氏は、「これによって、中央コンピューティングに液冷ECUを使用せずにすむことになり、コストを大幅に削減できる」と強調していた。システム制御プロセッサ(SCP)も統合していて、駐車モードや見張りモードなどのアプリケーション向けにさまざまな低消費電力モードも備えている。
Bhan氏は、「マルチドメインECUを単一のSoCに統合する場合、『ミックスド・クリティカリティ』(複数の異なる安全レベルを要求されるソフトウェアを単一のチップ上で実行すること)も非常に重要となる」とも説明。従来、ほとんどのSoCはハイパーバイザーなどのソフトウェアによって、ミックスド・クリティカリティを実現しているというが、R-Car X5Hは、ハードウェアベースの無干渉(Freedom from Interference:FFI)技術を適用した。
R-Car X5Hにおけるミックスド・クリティカリティ・ドメインの分離についてR-Car X5Hにおけるミックスド・クリティカリティ・ドメインの分離について[クリックで拡大] 出所:ルネサス エレクトロニクス
これによって、ブレーキなど高い安全レベルが求められる機能を、低い安全レベルの領域から安全に分離可能となる。高い安全性が求められる機能は冗長化した独立ドメインに割り当てられ、各ドメインに独自のCPUコア、メモリ、インタフェースを持たせることで、他のドメインのハードウェアやソフトウェアに故障が発生した場合でも影響を受けず、重大な車両故障を回避できるという。R-Car X5Hは、ワークロードの優先順位を見極めてリアルタイムに処理リソースを割り当てるQoS(Quality of Service)管理機能も備えている。同氏は、「ハイパーバイザーベースの分離のみに基づく他ソリューションと比較して、ハードウェアアーキテクチャとソフトウェアの両方で分離を組み合わせられるため、顧客は高いセキュリティを確保し、同時に高度な統合も実現できる」としている。
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