超小型の微小共振器デバイスで真空深紫外光を発生:大型レーザー光源の小型化に期待
大阪大学や立命館大学、京都大学らの研究グループは、従来とは異なる超小型の微小共振器デバイスを開発し、波長変換によって波長199nmの真空深紫外(VUV)光を発生させることに成功した。
DBRの材料を工夫すれば、より短波長でのデバイス動作も期待
大阪大学や立命館大学、京都大学らの研究グループは2024年12月、従来とは異なる超小型の微小共振器デバイスを開発し、波長変換によって波長199nmの真空深紫外(VUV)光を発生させることに成功したと発表した。
波長が200nm以下のVUVレーザー光源は、極めて小さなスポットに集光できるため、微細加工やフォトリソグラフィ、ウエハーやフォトマスクの検査といった用途で需要が拡大している。ただ、従来のVUVレーザー光源は大型でランニングコストが高い、などの課題があった。こうした中で、波長変換技術を用いた全固体VUVレーザー光源が期待されている。しかし、既存の波長変換結晶ではVUV帯域で第二高調波発生(SHG)の位相整合が達成できなかったという。
研究グループはこれまで、微小共振器型のデバイス構造を提案してきた。厚みがコヒーレンス長の波長変換結晶からなる共振器の内部にレーザー光を強く閉じ込め、そこから効率よく発生する変換光の反射位相を精密に制御することで、効率の良い波長変換を実現しようという考えである。
今回は、吸収端波長が130nmと極めて短く、高い光学非線形性と光損傷耐性を示しながらも、強誘電性や複屈折性を持たないSrB4O7(SBO)結晶に注目。SBO波長変換層を高反射分布ブラッグ反射器(DBR)で挟みこんだ微小共振器型SHGデバイスを設計した。この構造を最適化したところ、厚みが数μmというデバイスで高い波長変換効率を示すことが分かった。その上で、SBO微小共振器型SHGデバイスを試作し、これに波長398nmの青紫色レーザー光を入射した。この結果、波長199nmのVUV光を発生させることに成功した。
実験で得られたSH光の波長である199nmは、既に実用化されている波長変換結晶の「BBO(βBaB2O4)」や 「CLBO(CsLiB6O10)」の理論最短SH波長を下回っている。開発した技術を応用することで、大型で複雑だった従来の全固体VUVレーザーシステムを、直線型のシンプルな構造にすることが可能となった。さらに、DBRに用いる材料を工夫すれば、より短波長でのデバイス動作も期待できるという。
今回の研究成果は、大阪大学レーザー科学研究所の南部誠明助教や吉村政志教授、大阪大学大学院工学研究科の上向井正裕助教、谷川智之准教授、森勇介教授、片山竜二教授、立命館大学総合科学技術研究機構の藤原康文教授および、京都大学大学院工学研究科の石井良太助教、川上養一教授らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 阪大と東洋紡、高周波伝送向け電子回路基板を開発
大阪大学は、高耐熱性ポリイミドフィルムを活用した高周波伝送向け電子回路基板を、東洋紡と共同で開発した。6G(第6世代移動通信)用の電子回路基板に向ける。 - 青色波長帯で「初」、波長可変半導体レーザー
大阪大学は、青色波長帯で初めて波長可変半導体レーザーを開発した。新たな構造の波長変換デバイスと組み合わせれば、小型で実用的な遠紫外光源を実現できるという。 - 電流を流して金属を「ひずませる」 新たな振動センサーへの応用も
大阪大学の研究グループは名古屋大学と共同で、電気伝導性材料の「トポロジカル半金属」において、「フレキソエレクトリック効果」を観測した。新しい振動発電や振動センサーの材料として期待される。 - 伝送速度50Gbps、車載光通信方式の実証実験に成功
慶應義塾大学は、東京大学、大阪大学および、古河電気工業らを含む4機関と共同で、完全自動運転を支える高速車載光通信方式のコンセプト実証実験を行い、伝送速度が50Gビット/秒(Gbps)の高速通信に成功した。 - 新分子設計で有機半導体の励起子束縛エネルギー低減
大阪大学は、岡山大学や神戸大学、名古屋大学と共同で、新たに開発した分子設計手法を用い、有機半導体の励起子束縛エネルギーを低減することに成功した。有機太陽電池のエネルギー変換効率を向上させ、単成分型有機太陽電池として機能することも確認した。 - 新しいキラル半導体高分子を開発 溶液を塗るだけで成膜
大阪大学と東京工業大学は、新しいキラル半導体高分子を開発した。溶液を塗るだけで成膜でき、約70%という高い効率でスピン偏極電流を発生させることができる。