低侵襲性医療の極限を目指すカプセル内視鏡:福田昭のデバイス通信(485) 2024年度版実装技術ロードマップ(5)(1/2 ページ)
今回は、第2章第2節第1項(2.2.1)「メディカル・ライフサイエンス市場向けデバイスの事例検討」を紹介する。「2.2.1」の始めは「2.2.1.1 低侵襲性医療:カプセル内視鏡の事例」である。
メディカル・ライフサイエンス向けデバイスの事例を検討
電子情報技術産業協会(JEITA)が2年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2024年度版 実装技術ロードマップ」(PDF形式電子書籍)を2024年6月に発行した。既に2024年6月11日には、ロードマップの完成報告会を東京で開催している(本コラムの第462回で既報)。
本コラムではこのほど、ロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、前回の2022年度版に続いて今回の2024年度版も概要をご紹介できるようになった。この場を借りて同委員会の皆さまに深く感謝したい。
上記の経緯を経て、本コラムの第482回から、2024年度版のロードマップ概要をシリーズで紹介している。前々回(第483回)は、本論である「第2章:注目すべき市場と電子機器群」の内容を前回版(2022年度版)と比較し、違いをまとめた。前回は第2章第2節(2.2)「メディカル・ライフサイエンス領域の市場分析とシーズ技術の活用」の概要をご報告した。今回は第2章第2節第1項(2.2.1)「メディカル・ライフサイエンス市場向けデバイスの事例検討」に入る。「2.2.1」の始めは「2.2.1.1 低侵襲性医療:カプセル内視鏡の事例」である。
低侵襲性医療とは何か
ここで「低侵襲性医療」とは、人体をほとんど傷つけない機器やツールなどによって検査や診断、治療などを実施することを指す。検査における苦痛や疲労などの緩和、手術における傷口や出血、入院期間などの大幅な低減といった大きなメリットがある。具体的なツールと応用事例としては、内視鏡による消化管(食道や胃、大腸など)の検査と手術、カテーテルによる血管内検査と治療、腹腔鏡下手術、胸腔鏡下手術などが知られている。
従来の内視鏡では検査が困難な消化管に小腸がある。小腸は細くて長く、曲がりくねっているので従来の内視鏡では検査が難しい。また鼻・口からも肛門からも遠いので、既存の内視鏡(先端にカメラや照明などを備えた細長いチューブ状の内視鏡)では小腸に届きにくい。
既存の内視鏡では難しい「小腸」をカプセル状の内視鏡で検査
そこで、カプセル薬のような外形をした「カプセル内視鏡」が小腸の内視鏡検査に使われている。カプセル内視鏡は直径が11mm前後、長さが20mm〜30mm前後、重量が4グラム前後のカプセル状であり、被験者はカプセル内視鏡を口から飲み込むだけで、検査が進む。被験者は医療施設(病院)でカプセルを飲み込んだ後、特に異常がなければ1時間〜2時間後には退院して通常の生活に戻れる。カプセル内視鏡は消化管の蠕動運動を利用して進みながら周囲(消化管の内壁)を撮影し、8時間〜15時間後には便とともに被験者の体外に排出される。
このようにカプセル内視鏡は、被験者(患者)にとって非常に負担が少ない。現在普及している食道・胃の内視鏡検査や大腸内視鏡検査などでは、被験者がベッドに側臥した状態で内視鏡のチューブを鼻・口、あるいは肛門から通す。特にチューブを通す作業は痛みこそ少ないものの異物感が大きく、検査による患者の疲労はかなりのものになってしまう。
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