ローエンド型破壊イノベーションを起こしたDeepSeek 〜ウエハー需要への影響は:湯之上隆のナノフォーカス(79)(6/6 ページ)
2025年1月下旬に公開された中国発の大規模言語モデル(LLM)「DeepSeek-R1」は世界に衝撃をもたらした。わずか2カ月で開発されたというこのLLMの登場で、半導体ウエハー需要はどう変わるのだろうか。
自由貿易の死とウエハー需要の無駄な増大
TSMCの元CEOであるモリス・チャンは、2022年12月6日に米アリゾナ工場の開設式典で、「グローバリズムはほぼ死んだ。自由貿易もほぼ死んだ」と述べたと伝えられている。図9〜11は、その現状を反映していると言えるだろう。
そして、このような各国/地域の独自の行動が、世界半導体産業のウエハーキャパシティを(無駄に)増加させることが予測されている(図12)。2025年に月産1120万枚と思われていたウエハーキャパシティは、5%増加して1176万枚となり、2030年に1510万枚と予測されていたキャパシティは、5〜8%増加して1585万〜1630万枚になると推測されている。

図12 世界全体のウエハー需要とその増大[クリックで拡大] 出所:2024年11月14日 “ASML Investor Day” “End markets, wafer demand and lithography spending”/Amit Harchandani氏
その結果、2025年から2030年にかけてのウエハー需要増加は、1年当たりの平均で月産78万枚(780千枚)にとどまらず、さらに月産8万5000枚(85千枚)が追加され、合計で月産86万5000枚(865千枚)になる見込みである。
これは非常に不健全な状況である。というのは、ウエハーキャパシティの増加は消費者の動向を無視した動きであるからだ。半導体市場は需要と供給のバランスを取ることが非常に難しいため、このような無駄なキャパシティ増加は供給過剰を招き、価格の暴落を引き起こす危険性がある。
DeepSeekがウエハー需要にどう影響するか
本稿では、“ASML Investor Day”で発表されたスライドを用いて、2025年から2030年までのウエハー需要予測について詳述した。その結果、生成AIの影響によりDRAM用ウエハー需要が激増すること、各国/地域の補助金支出などにより世界的にウエハー需要が増大することが分かった。
このようなウエハー需要の増大に、DeepSeekがどのように影響するかは、まだ正確なところは分からない。そこで、ChatGPT(New Chat)に聞いてみた。
質問: DeepSeekが半導体のウエハー需要にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
回答(結論のみ): DeepSeekが生成AI技術の一部として広く使用されるようになると、AI用半導体、特に高性能なGPUやAI専用のチップの需要が増大し、結果として半導体のウエハー需要も増加することが予測されます。ウエハー需要の増加は、半導体業界における技術革新や市場の需要拡大を反映したものとなり、特に先端ノードの半導体技術に関連するウエハーの供給が重要な要素となります。
やはり、DeepSeekの登場はウエハー需要の増大につながる可能性が高いということである(ホントかな?)
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。
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