三拍子そろった好材料 次なるパワー半導体「二酸化ゲルマニウム」の可能性:FLOSFIA出身CEOの再挑戦(2/2 ページ)
SiCやGaNのさらに次の世代のパワー半導体材料として期待される二酸化ゲルマニウム。その社会実装を目指す立命館大学発のスタートアップ、Patentixで社長兼CEOを務める衣斐豊祐氏と、Co-CTO(共同最高技術責任者)を務める金子健太郎氏に話を聞いた。
高耐圧/高出力市場でSiCを代替する可能性も
――GeO2のターゲットアプリケーションはどのような領域ですか。
金子氏 高耐圧/高出力市場でSiCを代替する可能性がある。それ以外の市場はPatentixの事業が進展する中で次第に分かってくると考えている。かつてはGaNも「マーケットがない」とされていたが、通信技術が進化する中で高周波デバイスの需要が生まれてきた。GeO2も今後、思いもしなかった分野に広がっていくだろう。
――PatentixはGeO2基板/パワーデバイスの開発に取り組んでいて、2024年11月には「ルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO2)単結晶薄膜上にショットキーバリアダイオードを形成し、その動作を確認した」という発表もありました。Siデバイスに慣れている設計者にとって新材料のデバイスは扱いにくいという声もありますが、GeO2のデバイスとしての扱いやすさはどうなりそうでしょうか。
金子氏 実際の扱いやすさはまだ分からないが、GeO2はN型/P型ともにデバイスの動作速度が速いということが分かっている。SiCで見られるような絶縁膜界面における欠陥が起こりにくいので、それによって動作速度が下がるということもなく、設計者にとって扱いやすいデバイスができるのではないかと考えている。具体的にデバイスの回路や配線をどうすべきかといった部分は、顧客との話し合いの中で生まれてくるだろう。
「日本の研究成果を日本のベンチャーが普及させたい」
――デバイス製造は大手デバイスメーカーと連携して進めていくとのことですが、大手デバイスメーカーに求めることはありますか。
金子氏 アカデミアの研究者としての意見だが、新規材料の研究にはものすごい労力と資金がかかっていて「何もないところからすごいデバイスが手に入る」というわけではない。大手企業には資本業務提携などの資金的な援助も含め、リスクをある程度分かち合って協力してもらいたいと思う。
――Patentixとしての今後の展望を教えてください。
衣斐氏 大企業がGeO2に参入できるレベルまで持っていくことがPatentixの役目だと考えている。GeO2にはまだ技術的な課題が非常に多く、社会実装に向けてはサプライチェーンも構築する必要がある。現時点では大企業にとってはリスクが大きすぎるので、大企業が参入できる状況を整えていく。
日本で盛んに研究されていた半導体材料が他国の企業によって社会実装されるケースが多いが、GeO2では、日本の研究成果を日本のスタートアップが世界中に普及させていきたいと考えている。
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