名古屋大ら、AlN系材料で良好なpn接合を作製:分布型分極ドーピング手法で形成
名古屋大学と旭化成による研究グループは、窒化アルミニウム(AlN)系材料を用い、極めて良好な特性を示すpn接合を作製した。次世代の高周波デバイスやパワーデバイスに向けて、AlN系材料の応用が期待される。
絶縁破壊電界強度は7.3MV/cm、Siの25倍、SiCやGaNの2倍
名古屋大学未来材料・システム研究所の須田淳教授や天野浩教授と旭化成による研究グループは2023年12月、窒化アルミニウム(AlN)系材料を用い、極めて良好な特性を示すpn接合を作製したと発表した。次世代の高周波デバイスやパワーデバイスに向けて、AlN系材料の応用が期待される。
ウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体は、現在主流となっているシリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)に比べ、バンドギャップ(禁制帯幅)が4〜5倍である。このため、高周波デバイスやパワーデバイスの性能向上を可能にする半導体材料として注目されている。バンドギャップが6.0eVのAlN系材料もその一つである。ところが、UWBG半導体は、電子デバイスにおいて最も重要となる理想的なpn接合を作製することが、極めて難しいという。
研究グループは今回、旭化成の子会社であるクリスタル・アイエス(CIS)が開発した高品質のAlN単結晶基板上に、分布型分極ドーピング(DPD:distributed polarization doping)という手法を用いてpn接合を形成した。
具体的には、AlN(0001)基板上にMOVPE(有機金属気相エピタキシャル成長)法を用いて、「ドーピングを行わないAlN層」と「高濃度n型Al0.7Ga0.3N層」を設けた。さらに、AlNのモル分率を徐々に増加させた「n型DPD層」とAlNのモル分率を減少させた「p型DPD層」を作製、最後に高濃度p型GaN層を形成した。そして、上部と下部に電極を取り付け、pn接合ダイオードを作製した。
作製したAlN系pn接合は、理想的な「電流−電圧特性」や「電圧−容量特性」「電流注入による発光特性」を示したという。特に、絶縁破壊電界強度は7.3MV/cmとなった。この値は、Siの25倍、SiCやGaNと比較しても2倍である。今回は耐圧を向上させる工夫は何も行っておらず、研究が進めばさらに向上する可能性があるとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東邦大ら、金ナノ粒子を用いて三次元構造を構築
東邦大学と名古屋大学の研究グループは、ナノカプセル内に複数個の金ナノ粒子を閉じ込めて、ナノ物質による三次元構造を作り出す技術を開発したと発表した。高感度マルチカラーセンサーの開発などに応用できるという。 - トポロジカル物質における表面超伝導を発見
名古屋大学の研究グループは、東京大学物性研究所と共同で、ノーダルライン半金属と呼ばれるトポロジカル物質において表面超伝導を発見した。 - ニオブを用い伝送損失が小さいミリ波帯導波管を開発
名古屋大学と国立天文台、川島製作所および、情報通信研究機構(NICT)の研究グループは、ニオブ(Nb)を用いてミリ波帯の導波管を作製し、超伝導状態にある導波管の伝送損失が極めて小さくなることを確認した。次世代通信規格「Beyond 5G/6G」などへの応用を見込む。 - 新しいハイエントロピー型アンチモン化合物で超伝導を観測
名古屋大学の研究グループは新しいハイエントロピー型アンチモン化合物の合成に成功し、この物質が超伝導体であることを確認した。元素の構成比率を変えれば、超伝導性能をさらに向上できる可能性があるという。 - 4インチAlN単結晶基板の製造に成功、旭化成子会社
旭化成の子会社である米Crystal ISが、4インチ窒化アルミニウム(AlN)単結晶基板の製造に「世界で初めて」(旭化成)成功した。今後は、外販も視野に入れ、4インチAlN基板の商業化を目指す。 - 旭化成、LiCに関するライセンス活動を本格展開
旭化成は、リチウムイオンキャパシター(LiC)の設計と製造技術についてライセンス活動を本格的に始める。独自の新ドープ法により、LiCの容量や入出力性能が従来品に比べ向上。汎用的な部材や設備が利用できるため、製造コストを削減することも可能になるという。