AIで半導体の製造工程を最適化 ウエハーからデバイスまで一気通貫で:最適化時間を1000分の1に短縮
名古屋大学や理化学研究所、グローバルウェーハズ・ジャパン、アイクリスタルおよび、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングは、シリコン(Si)ウエハー製造からCMOSイメージセンサー(CIS)製造までの工程を一気通貫で最適化することに成功した。最適化に要する時間も従来の1000分の1に短縮できたという。
CIS以外の製造にも適応できるプラットフォームを開発
名古屋大学や理化学研究所、グローバルウェーハズ・ジャパン、アイクリスタルおよび、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングは2025年3月、シリコン(Si)ウエハー製造からCMOSイメージセンサー(CIS)製造までの工程を一気通貫で最適化することに成功したと発表した。最適化に要する時間も従来の1000分の1に短縮できたという。
先端の半導体デバイス開発においては、デバイス性能を高めるだけでなく、開発効率の改善も重要となる。このため、上流のウエハー製造から下流のデバイス製造まで、工程全体を最適化することが求められている。ところが材料メーカーからデバイスメーカーまで、各企業が連携して製造工程を最適化する仕組みはこれまでなかったという。
今回は、先端CISのノイズ特性改善に向けて、Siウエハーメーカーであるグローバルウェーハズ・ジャパンと、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングが共同で、上流から下流までの全体工程で最適化に取り組んだ。
全体工程の最適化に向けて、アイクリスタルがデジタルツインを構築し、理化学研究所と名古屋大学は効率的な最適化アルゴリズムを開発した。さらに、アイクリスタルは研究成果を、CIS以外の半導体デバイス製造にも適応できるプラットフォーム(メタファクトリー)を開発した。
実験では、BMDと呼ばれる欠陥の密度分布を理想的な分布に近づける目的関数(BMD_bulkおよびBMD_surface)、ドーパント濃度分布を理想的な分布に近づけるための目的関数(Dopant)に対し最適化を行った。
最適条件が得られるまでには1万回以上の条件探索が必要となる。これを従来のシミュレーション(Sim)で実行すると1年かかるという。実際の製品開発では制約条件などを変え、シミュレーションを繰り返し行うため、最適化には数年もかかることがある。これに対し、今回開発したデジタルツイン(AI)を活用して最適化を行ったところ、1万回の条件探索を8時間で完了した。
今回の研究成果は、名古屋大学未来材料・システム研究所の宇治原徹教授や理化学研究所革新知能統合研究センターの沓掛健太朗客員研究員(現在は名古屋大学未来材料・システム研究所准教授)、グローバルウェーハズ・ジャパンの永井勇太参事、アイクリスタルの高石将輝代表取締役、関翔太取締役技術統括および、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの谷川公一主幹技師らによるものである。
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