ソニーのCIS技術が生きる! 細胞の活動を「圧倒的な高解像度」で可視化する新技術:23.7万電極のMEAシステム(3/3 ページ)
ソニーセミコンダクタソリューションズとSCREENホールディングス、VitroVoの3社は2025年6月3日、電極数約23万7000個の高密度「CMOS-MEA(Microelectrode Array)」を用いたMEAシステムを共同開発し、試験提供を開始したと発表した。
ソニーのイメージセンサー技術がどう生きた?
ソニーセミコンのCMOS-MEAは、同社がこれまで培ってきたCMOSイメージセンサー技術を応用することで実現したものだ。
CMOS-MEAの構造は、2次元のアレイ上に電極が並び、この電極を順次スキャンしデータを読み出し、チップ内のA-D変換器でデジタル信号に変換。チップ外に高速に読み出すというものだ。ソニーセミコンの研究開発センター 第一研究部門の加藤祐理氏は「画素の代わりに電極が並んでいるようなもの。技術的にはイメージセンサーのセンサーの構造と非常に似ている」と説明。多画素の低ノイズ/高速読み出しなど、同社が長年培ってきたイメージセンサー関連技術によって、これまでになかった性能を実現しているという。同部門の西直樹氏も「多電極全ての同時読み出しを実現する高速なA-D変換器やインタフェース技術など、われわれだからこそ可能なもので、大きく差異化できるポイントだ」と強調していた。
単にイメージセンサー関連技術を転用するだけでは、このデバイスは実現しなかった。測定対象である神経細胞の活動の電気信号は、100μVレベルと非常に小さい。一般的なイメージセンサーはノイズのレベルが100μV程度であるため、そのままイメージセンサーの技術を転用するだけでは、信号がノイズに埋もれてしまうことになる。そこでノイズを低減する新たなアンプ技術を開発した。これによってデバイスのノイズレベルは10μVと、イメージセンサーと比べ1桁低減し、かつ2次元に高速に信号スキャンを行うデバイスを実現したとしている。
一般的にイメージセンサーはドライな環境で使う一方、CMOS-MEAはセンサー上で細胞を培養する必要がある。そのため入れた培養液が漏れず、長期間細胞を培養できるようなパッケージングの技術も新たに開発した。さらに、高速動作するチップの発熱で細胞が死なないよう、37℃近辺に温度を調整するため、システム側にペルチェ素子を用いた温度制御機能を搭載。デバイス側の表面温度を測定する温度計も搭載し、システムにフィードバックし温度制御できるようにしている。
デバイスの製造は、電極(プラチナ)部分以外はCMOSイメージセンサー製造ラインを利用できるといい、西氏は「完全に技術的に横展開できるものだ。CIS製造のアセットをそのまま活用でき、われわれの有するコスト競争力も活用できるだろう」と語っていた。
電極材料 | プラチナ |
---|---|
電極ピッチ | 11.72 × 11.72μm |
電極サイズ | 11.22 × 11.22μm |
センサーエリア | 5.5 × 5.9mm |
電極数 | 470 × 504 = 23万6880 |
サンプリングレート | 10kHz(All electrodes scan) 70kHz(1/7 electrodes scan) |
ノイズレベル | < 10μVrms |
開発中のCMOS-MEAのスペック |
今後2年は試験提供を継続、幅広い活用に期待
ソニーセミコンらは今回発表したシステムについて、最低でも2年は試験提供を継続していく方針で、市場の反応を見ながら事業化の可能性を探っていくという。
同システムによって、高密度な細胞活動データに基づき、疾患の表現型の研究や、これまで主に実験動物を用いていた新薬候補化合物のリスク評価や薬効評価の効率化に貢献できる可能性があると説明。神経細胞の活動が観察可能になることで、うつ病や統合失調症などの精神疾患や筋萎縮性側索硬化症(ALS)やアルツハイマー病などの神経疾患に向けた新薬の研究開発、脳科学の基礎研究での活用も想定できるとしている。
加藤氏は「従来のMEAでも測定はできるが、得られるデータの中身が違う。今まで見られなかったような視点で活動を解析でき、新しい知見が得られる可能性は十分にある」と語っていた。
ソニーセミコンはCMOS-MEA技術のさらなる発展/応用の可能性として、脳波の検出などによって機器の操作を可能にする「ブレインマシンインタフェース」や人工脳を計算資源として活用する技術「オルガノイドインテリジェンス」なども挙げていた。
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