半導体市場25年は予想以上に伸びるが26年はメモリが失速? ―― WSTS春季予測考察:大山聡の業界スコープ(89)(3/3 ページ)
世界半導体市場統計(WSTS)は2025年6月3日、2025年および2026年の半導体市場予測を発表した。この予測を見ながら今後の半導体市場見通しについて考える。
メモリ市場は24年ピークアウト後も堅調、ただし26年は要警戒
メモリ市場は同11.7%増という予測。前回の予測では同13.4%増で、下方修正されている。2025年1〜4月までの実績を見ると同24.5%増であり、ここからは悪化する予測となっているが、この予測も違和感がある。メモリ市場は2024年に同79.3%増という極めて高い成長を記録しており、伸び率という点ではすでにピークアウトしたといってよいだろう。しかしWSTSの同11.7%増という予測は、2025年後半にマイナス成長に落ち込むことが前提になっているように思える。データセンターからの需要がまだピークアウトした様子を見せておらず、2025年後半も伸び続ける可能性が極めて高い。そのため2025年のメモリ市場は同30%増を上回る、と筆者は予測している。
確かにPCやスマホ向けのメモリ需要は盛り上がりを見せていないが、この状況は2023年、2024年も同様であった。2025年もあまり大きな期待はできないが、2025年10月にはMicrosoftがWindows10のサポートを終了するので、これに伴うPCの買い替え需要が発生する可能性がある。むしろ筆者が懸念しているのは2026年のメモリ市場である。
過去の市況サイクルを見ると、メモリ市場が大きなマイナス成長に落ち込んだのは2019年、2023年である。シリコンサイクルが4年周期だとすれば、次のボトムは2027年ということになる。伸び率のピーク時に着目すると、前回のピークが2021年、今回は2024年に訪れている。ボトムはピークの2年後に発生することが多く、2026年のメモリ市況は「要注意」だと筆者はみている。データセンター向けの需要がいつまで好調に推移するかがポイントだろう。
成長見込める25年、だが26年は複数リスクが控える
全体の結論として、2025年の11.2%増というWSTSの予測には違和感があり、筆者としては20〜25%程度の成長が期待できると見ている。特にロジックおよびメモリ市場のWSTS予測は極めて保守的に感じられ、それ以外の市場についても筆者の予測はもう少し強気である。
ただし、すでに述べたように、2026年のメモリ市況は要注意だと思うし、トランプ関税など政治面からの影響についても、今後の懸念材料として挙げられる。半導体/電子機器に対してはまだトランプ関税は発動されておらず、この先も発動されないまま、という可能性も十分に考えられるが、世界中が注目していることなので、今後の動向を見守りたい。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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