次はデータセンター 「スマホ以外」にも手を広げるQualcomm:Alphawave Semiを買収
Alphawave Semiを24億米ドルで買収することに合意したQualcomm。スマートフォンのアプリケーションプロセッサで確固たる地位を築いている同社の次の狙いは、データセンターだ。
半導体IP(Intellectual Property)の重要度はチップのエコシステムにおいて増している。QualcommがAlphawave Semi(以下、Alphawave)を24億米ドルで買収合意したことは、大手ICベンダーが専門IPを自社開発するのではなく、買収する方向へ移行していることを示す最新の事例である。また、この買収はQualcommがモバイルプロセッサを越えて事業の多角化を目指していることも裏付けている。
AlphawaveのSerDes技術は、AIアプリケーションにとって不可欠な高速データ転送を可能にし、Qualcommの最新のAIワークロードの膨大なデータ転送要件に対応できるチップを開発する上で役立つ可能性がある。従来のアナログSerDesアーキテクチャとは異なり、AlphawaveのDSPベースのSerDes構築アプローチは、データレートの高速化と製造プロセスの微細化を実現する。
Alphawaveは単なるIP企業ではなく、チップレットやカスタムASICも手掛けている。同社は2025年6月5日、TSMCの2nm世代プロセス「N2」を適用したUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express) IPサブシステムのテープアウトに成功したと発表した。同チップレットは、36Gのダイ間データレートをサポートする。
Alphawaveは2022年に、以前はOpen-Siliconとして知られていたSiFiveのASIC事業を2億1000万米ドルで買収している。注目すべきは、最高のIPがあれば、ASIC事業がはるかに容易になることだ。BroadcomやMediaTek、Marvell Technology Groupなどの大手チップ企業はASIC事業を展開しているが、Alphawaveとの契約によって、Qualcommもその仲間入りをすることになる。
次の狙いはAI/データセンターか
Qualcommは多角化の一環として、PCプロセッサの市場シェアの獲得を目指す一方で、Alphawaveとの契約によってデータセンターおよびAIチップ分野も狙うとみられる。ArmもデータセンターとAIシリコン分野で野望を抱いているが、Alphawaveの買収は失敗に終わっている。業界では、IntelもAlphawaveに興味を示しているとうわさされている。
Qualcommのプレジデント兼CEOを務めるCristiano Amon氏は2025年6月9日に発表した公式声明で「Alphawave Semiは、プレジデント兼CEOのTony Pialis氏のリーダーシップの下、当社の電力効率に優れたCPUおよびNPUコアを補完する、最先端の高速有線接続およびコンピューティング技術を開発してきた。Qualcommの高度なカスタムプロセッサは、データセンターのワークロードに適合する。統合されたチームは、データセンターインフラを含む幅広い高成長分野において、高度な技術ソリューションを構築し、次世代レベルのコネクテッドコンピューティング性能を実現するという目標を共有している」と述べている。
Alphawaveは、2025年4月に発表した2025年第1四半期の取引報告で、同四半期は強い勢いが見られたと述べている。具体的には、同四半期のロイヤルティーとシリコンの購入注文の総額は2190万米ドルに達した。さらに興味深いのは、新しい設計案件の見通しで、第1四半期に5件の新規IP設計を獲得している。
これらの知財設計の勝利には、主要なハイパースケーラーとのライブラリアクセス契約や、AIとコンピューティングインフラストラクチャを実現するためのPCIe(PCI Express)とPCIeの製品ライン全体にわたる複数の知財使用が含まれる。Alphawave Semiによると、同社は同四半期中に戦略的な3nm 224GベースのI/Oチップ設計も獲得したという。これは、高度なプロセスノードや高性能コンピューティングアプリケーションで同社の知財が採用され、UPCIeテクノロジーを使用した高度なパッケージングが行われていることを示している。
QualcommによるAlphawave Semiの買収は、2026年第1四半期中に完了する予定だ。ただし、一定の規制当局の承認、Alphawave Semiの株主の過半数の承認といった条件が必要になる。
Qualcommが高速有線接続技術の主要プレイヤーを獲得した今、同社がデータセンターとAIチップのロードマップをどのように切り開くのかを見るのは興味深い。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
半導体市場25年は予想以上に伸びるが26年はメモリが失速? ―― WSTS春季予測考察
世界半導体市場統計(WSTS)は2025年6月3日、2025年および2026年の半導体市場予測を発表した。この予測を見ながら今後の半導体市場見通しについて考える。「NVIDIAと真逆の取り組みをしよう」 Jim Keller氏
AIワークロード向けのプロセッサ「Blackhole」の出荷を開始したTenstorrent。同社のCEOを務めるJim Keller氏は「この4年間で最も素晴らしい日になった」と語る。「Dragonwing」搭載 Wi-Fi 7対応の日本製エッジAIモジュール
サイレックス・テクノロジーは「Japan IT Week【春】」内「第28回 IoT・エッジコンピューティング EXPO」にて、Qualcommのプロセッサ「Dragonwing QCS6490」を搭載した産業用エッジAI向けのシステムオンモジュール(SoM)「EP-200Q」を展示した。バッテリー駆動の産業/医療機器に向ける。TSMCが米国に1000億ドル追加投資 「政権の威力」とトランプ氏
TSMCは、米国でのAIチップ生産を開始すべく、1000億米ドルの追加投資を行う予定だという。これによって、ドナルド・トランプ米大統領が台湾企業からの輸入品に課すと脅かしていた最大50%の関税を、辛うじて回避することになる。BroadcomはNVIDIAに次ぐ注目銘柄になり得るのか 半導体大手10社の現在地
2024年の半導体大手メーカー10社の実績を振り返ってみたい。