高速／高出力の300GHz帯信号生成システムを実現 6G開発に弾み：出力0dBm、データレート280Gbps

日本電信電話（NTT）とNTTイノベーティブデバイスおよび、Keysight Technologiesは、高速無線通信などに用いられるJ帯フルバンド（220G〜325GHz）をカバーする「増幅器モジュール」と、信号のひずみを高い精度で補償できる「測定システム」を開発した。これらを組み合わせ、300GHz帯で0dBmという高い出力と、280Gビット/秒という高速データレートの信号生成に成功した。

[馬本隆綱，EE Times Japan]

高速無線通信や高精度レーダーへのサブテラヘルツ波応用に期待

　日本電信電話（NTT）とNTTイノベーティブデバイスおよび、Keysight Technologies（以下、Keysight）は2025年６月16日、高速無線通信などに用いられるJ帯フルバンド（220G〜325GHz）をカバーする「増幅器モジュール」と、信号のひずみを高い精度で補償できる「測定システム」を開発したと発表した。これらを組み合わせ、300GHz帯で0dBmという高い出力と、280Gビット/秒という高速データレートの信号生成に成功した。

　6Gでは、サブテラヘルツ波（100G〜300GHz）の電波を用いたシステムの実用化に向け、基盤技術の研究開発が進んでいる。300GHz帯の電波を活用することで、100Gビット/秒を超える大容量無線通信装置や、約1mmという分解能を備えたレーダーシステムなどを実現できるためだ。ただ、これらのシステムを開発するには、J帯の変調信号を用いて評価を行う必要がある。しかしこれまでは、高速、高出力の変調信号を生成できる信号源がなかったという。

　そこで今回、NTTとNTTイノベーティブデバイス、Keysightは、300GHz帯の広帯域増幅器と高い精度のひずみ補償技術を組み合わせた信号生成システムを開発した。具体的には、NTTが独自開発した高速動作のインジウムリン（InP）系化合物半導体を用いて増幅器ICを設計、NTTイノベーティブが製造した。これをJ帯の導波管パッケージに実装し、増幅器モジュールとした。増幅器モジュールはJ帯フルバンドで、最大＋9.1dBmという高出力を達成した。なお、増幅器モジュールは、NTTイノベーティブデバイスが製品化している。

増幅器ICの顕微鏡写真と増幅器モジュールの外観［クリックで拡大］ 出所：NTT他

増幅器モジュールとひずみ補償技術を組み合わせた信号生成システムの測定系ブロック図と外観［クリックで拡大］ 出所：NTT他

　Keysightは、信号のひずみ特性を測定する装置「ベクトルコンポーネントアナライザ」と、発生したひずみを高い精度で補償する信号処理技術（Digital Pre-Distortion技術）を提供した。具体的にはシステムで発生するひずみを測定し、このひずみを補償するための処理をあらかじめ行うことによって、出力信号のひずみを低減できるという。

　これらの技術を組み合わせることで、300GHz帯において280Gビット/秒（35Gbaud、256QAM）の信号を生成することに成功した。出力パワーは0dBmを実現。従来の最高データレート時のパワー（−9dBm）と比べ約8倍となる。

生成した280Gビット/秒の変調信号におけるコンスタレーション［クリックで拡大］ 出所：NTT他

J帯での信号生成に関する報告例［クリックで拡大］ 出所：NTT他

　研究グループは今後、ひずみモデルを用いたフィードフォワードのひずみ補償技術の適用なども検討していく。これにより、テスト信号をフィードバックせずに、簡便かつ柔軟な信号生成が可能となる。また、生成信号のさらなる高速化や高出力化に向けて、デバイスや装置、信号処理方式の開発なども引き続き行っていく。