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創刊前の20年間(1985年〜2005年)で最も驚いたこと:1985年の「不可能」二題福田昭のデバイス通信(500) EETimes Japan 20周年記念寄稿(その1)

EE Times Japan 創刊20周年に合わせて、半導体業界を長年見てきたジャーナリストの皆さまや、EE Times Japanで記事を執筆していただいている方からの特別寄稿を掲載しています。今回は、40年以上にわたり半導体技術/電子技術を見守り、フリーの技術ジャーナリストとして活躍されている福田昭氏にご寄稿いただきます。EE Times Japan創刊からさらに20年さかのぼり、1985年の話からスタートします。

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創刊の20年前(1985年)に戻って当時の課題を振り返る

 EETimes Japan創刊20周年おめでとうございます。寄稿者の一人としてお祝い申し上げます。また20周年を記念した寄稿者の一人に選ばれたことを、光栄に存じます。

 さて、ここからは本題です。編集部から頂いたお題は粗く言ってしまうと「(この20年ほどで)最も注目した(印象に残った、驚愕した)技術進化」と「この先の展望や課題に対する所感」でした。1つ目のお題は書くこと(技術進化)がありすぎてテーマの選択と集中が必須でした。2つ目のお題は逆に書くことがなさすぎて(何を書いても聞いたふうなテーマになってしまうから)、困りました。それでも駄文を承知で、所感を述べます。

 始めの技術進化ですが、電子技術や半導体技術などの歴史を振り返ると、それまで不可能であると思われてきた課題ほど、ブレークスルーが研究開発のコミュニティーに与えるインパクトは大きなものになります。そこで思い切って時代を1980年前後まで戻すことにします。筆者は1981年〜1984年まで、大学から大学院で3年ほど、「光エレクトロニクス」を専門とする研究室に在籍していました。そこでいくつかの「実現不可能に近いほど困難な課題」を知ることになりました。ここでは課題の事例を2つ挙げます。

 筆者が感じていた、1980年当時のエレクトロニクスにおける「実現不可能に近いほど困難な課題」の代表は以下の2つです。この課題はEETimes Japanの創刊「前」20年に相当する1985年になっても、依然として「実現困難な課題」のままでした。

 課題の1つは、「超伝導」分野、具体的には超伝導状態を実現する温度(「臨界温度」または「転移温度」などと呼ばれます)でした。当時既に超伝導体を利用した超高速のスイッチング素子「ジョセフソン素子」が知られていました。ジョセフソン素子は超高速コンピュータへの応用が期待されていましたが、液体ヘリウムを冷媒とする極低温状態(4.2K、−269℃)を必要とすることが大きな課題でした。しかし理論的には当時、転移温度の上限は30K付近とされており、実際に確認された最高温度は20K付近でした。

 もう1つの課題は、「発光ダイオード(LED)」分野です。1980年当時の発光ダイオード(LED)は、発光色で大きく分類すると赤色、赤外色、黄緑色の3種類がありました。その中で赤色LEDと黄緑色LED(緑色LEDを含む)は「可視光LED」とも呼ばれ、目に見える光であることから表示灯や小型ディスプレイ、デジタルメーターなどに既に使われていました。

 可視光の3原色は、赤色、緑色、青色となっています。この3原色を組み合わせると白色光はもちろんのこと、混色によってさまざまな色を実現できるようなります。ところが青色発光ダイオード(青色LED)だけは当時、研究開発レベルでも製造が極めて難しいとされていました。候補となる材料はいくつか存在しているものの、良好なpn接合が作れなかったのです。


EETimes Japanの創刊前20年(1985年)における常識と課題。筆者が選んだもの[クリックで拡大]

遅々として進まなかった研究開発

 こういった手詰まりの状態は、筆者が1984年4月1日に社会人になってからも、しばらくは変わりませんでした。新聞社系の出版社で総合エレクトロニクス技術雑誌の記者兼編集者に配属されていたので、エレクトロニクス技術全般をリアルタイムで観察できる環境に置かれたのは幸運でした。その後、筆者は続けて異動していきます。1985年3月1日に半導体技術専門雑誌(同年7月創刊)に異動し、1987年3月1日には再び元の総合エレクトロニクス技術雑誌へと異動になります。

 1987年3月1日は、超伝導の常識が覆りつつある時期と重なります。「高温超伝導フィーバー」と称される、世界中の物理学者、そして世界中のマスコミや科学誌、技術誌などを巻き込んだ大騒ぎが、まさに始まろうとしていました。

(次回に続く)

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