InP系結晶薄膜素子を300mmシリコンウエハーに転写:タイリング「CFB」技術を開発
OKIは、素子にダメージを与えることなく異種材料集積を可能にするタイリング「CFB」技術を開発した。実験では直径50mm(2インチ)のInPウエハー上に形成したInP系結晶薄膜素子を剥離し、300mm(12インチ)シリコンウエハー全面への転写に成功した。
異なるウエハーサイズでも、素子にダメージを与えず異種材料を集積
OKIは2025年6月、素子にダメージを与えることなく異種材料集積を可能にするタイリング「CFB(Crystal Film Bonding)」技術を開発したと発表した。実験では直径50mm(2インチ)のInPウエハー上に形成したInP系結晶薄膜素子を剥離し、300mm(12インチ)シリコンウエハー全面への転写に成功した。
電子回路と光回路を組み合わせて一体化する光電融合技術は、データの高速伝送や消費電力の低減、大容量化を可能にする技術として注目されている。特に、異種材料を集積する技術を用いれば、シリコンフォトニクスと光半導体の融合が可能となる。
ただ、シリコンフォトニクスでは300mmなど大口径シリコンウエハーを用いるのに対し、光半導体は50mmなど小口径化合物半導体ウエハーが主流となっており、ウエハーサイズの違いなどが異種材料を集積する上で課題となっていた。
今回開発したタイリング「CFB」技術は、異なるウエハーサイズの課題を克服し、ダメージなく異種材料の集積を可能にした。実験では、50mmのInPウエハー上に犠牲層とInP系結晶薄膜をエピタキシャル成長させ、素子ごとに分離した。各素子には犠牲層エッチング時の薬液浸食を防ぐ保護構造と、一括転写用の支持体を設けた。
その後、InP系結晶薄膜素子を中間転写基板へ一括転写し、中間転写基板上で保護構造と支持体を取り除いた。中間転写基板は独自構造を採用しているため、InP系結晶薄膜素子は除去プロセスでも接合状態を維持でき、転写時には容易にはがれるという。
さらに、中間転写基板から「CFB」スタンプを用いて、300mmシリコンウエハーの全面に繰り返し転写を行った。今回用いた「CFB」スタンプの大きさは30×30mmで、転写回数は52回、転写に要した時間は約10分であった。
位置精度は±約1μmで、角度精度は±約0.005度である。シリコン光導波路と光半導体を立体的に交差させるOKI独自のシリコンフォトニクス技術「立体交差導波路」と組み合わせれば、高効率の光結合が可能となる。
今回は、50mmのInPウエハーから300mmシリコンウエハーへのタイリング「CFB」技術を実証したが、100mm(4インチ)InPウエハーや、200mm(8インチ)シリコンウエハーなど、異なるウエハーサイズにも柔軟に適用できるという。
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