サプライチェーン管理でAIをどう活用するのか:期待と現実に大きなギャップ(2/2 ページ)
AIは明らかに将来有望であるにもかかわらず、エレクトロニクスサプライチェーンは依然として岐路に立っている。企業がAIソリューションを拡大/統合する上で根強く残る障壁に直面していることから、高い期待と日々の現実との間のギャップが拡大している。
AI活用の拡大を妨げる要因とは?
多くのサプライチェーンリーダーは「AI投資を試験的段階から本格的な実用化へと移行していく上で重要な課題となるのは、AI導入に対する文化的な抵抗だ」と考えている。しかし、Gartnerが最近行った調査データによると、AI活用に対する受容力については、異なる様相がみられるという。
実際、サプライチェーンリーダー全体の94%が、AIツールの利用を全面的に受け入れており、さらに86%が、AIツールを既存のワークフローに組み込む上で有益なユースケースがあることを認識している。
主な課題は、文化的な抵抗ではなく、AIを組み込んで、絶え間なく発生するプロセスのボトルネックを克服することが難しいという点だ。既存のワークフローにAIツールをシームレスに統合できていると回答したサプライチェーンリーダーは、全体のわずか3分の1程度にとどまる。
エレクトロニクスサプライチェーンでは、このようなボトルネックがあらゆる段階で発生する可能性がある。例えば、需要予測の誤りによる在庫切れや、原材料の価格変動、製造における品質管理の問題、輸送の遅延などが挙げられる。
AIソリューションをこのようなプロセスにうまく統合するためには、最初に基本的なワークフローの問題に対応することが不可欠だ。この重要なステップを踏まなければ、摩擦が高まり、導入プロセスが大幅に遅れる可能性がある。
企業がAIの可能性を最大限に引き出すためには、幅広い普及の実現に向けて障壁を下げることに注力しなければならない。特に効果的なアプローチとして、以下の3つが挙げられる。
1.複雑なプロセスの標準化:企業が需要予測のようなプロセスを効率化/標準化することで、スタッフはAIツールを容易に取り入れられるようになる。例えば、地域全体で需要計画を標準化すれば、AIはより高い精度で在庫需要を予測でき、在庫レベルを安定的に最適化することができる。
2.ルーティンワークの自動化:従業員を反復的な低リスクの業務から解放することで、より価値の高い活動に集中させることができる。エレクトロニクス分野では、データ計算や受注処理、繰り返しの品質チェックなどをAIで自動化することにより、熟練労働者が、新製品の導入やリスク緩和といった戦略的なイニシアチブに注力できるようになる。
3.AIスチュワードの任命:技術チームとエンドユーザーとを橋渡しする役割を担う「AIスチュワード」を選任することにより、AIソリューションを実際のビジネスニーズに確実に適合させることができる。このようなスチュワードが、変化への対応や、トレーニングの提供、導入の支援などを行うことで、イノベーションや継続的な改善の文化が強化されていく。
このような戦略により、効率性や顧客満足度、サプライチェーンの透明性などを大幅に向上させることが可能だ。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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