GaN撤退のTSMC、その後の戦略を考察する:アリゾナ工場への投資がヒントに(2/2 ページ)
TSMCが窒化ガリウム(GaN)ファウンドリー事業から撤退するニュースは大きな話題となった。撤退して後の「リソースの余力」を、TSMCはどこに振り分けるのか。
先進パッケージング技術への投資を加速させるTSMC
TSMCのGaN撤退に関する包括的な決定要因を考えるにあたり、同社の米国アリゾナ工場への野心的な投資を見逃すことはできない。
TSMCは現在、米国への投資を1000億米ドル追加し、3つの新しい製造工場と2つの先進パッケージング施設、大規模な研究開発チームセンターを1つ拡充している。同社の半導体でAIブームをさらに刺激していきたい考えだ。
TSMCは、2020年に最初にアリゾナ工場への投資を検討した時から、既にAIアプリケーションに対応するために投資の優先度を合理化してきた。このような状況の下、GaNに引き続き注力することは、GaNがEVやパワーエレクトロニクス分野で成長すると予測されているにもかかわらず、TSMCの核となるロードマップにおいてあまり重要ではなくなったのだろう。
さらにこうした動きは、中国が現在、世界のGaN供給全体の約98%を支配しているといった、地政学的リスクによってますます複雑化している。米中間の貿易関係の緊張が高まっているという背景の中、中国が独占している材料に依存することは、戦略的にもサプライチェーンの面でも重大な脆弱(ぜいじゃく)性を引き起こすことになる。
TSMCは、GaNファウンドリーの顧客を他の調達ソースへとスムーズに移行できるよう支援しており(Navitasも既に同様の契約をPSMCと締結)、台湾の新竹市にあるGaN生産専用だった「Fab 5」を、先進パッケージング技術に注力する施設に転用する計画を明らかにした。国内外での多額の投資に伴い、2026年までに自社の先進パッケージング能力を倍増させる予定だという。ただし、その詳細は明かしていない。
TSMCは、CoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)技術のファウンドリーとしての位置付けを模索していくのではないだろうか。この高度なパッケージング技術は、チップの演算能力を向上させ、AI機能を強化したいと考えている大手テクノロジー企業にとって極めて重要になる。
一方で、TSMCは変化する市場ニーズに対応するため、ファウンドリーをシングルウエハープロセス向けに最適化しようとしている可能性もある。顧客ニーズが、より微細な線幅とより複雑な3D構造を持つ複雑なチップへと進化するにつれ、このアプローチを早期に実用化(商業化)することで、AIチップ市場におけるTSMCの地位をさらに強化できる可能性がある。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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