MIT発の縦型GaN新興が1100万ドル調達、信越化学工業らが出資:Pat Gelsinger氏参画のVCが主導
米国マサチューセッツ工科大学発の新興企業Vertical Semiconductorが、縦型窒化ガリウム(GaN)トランジスタ開発に向け、1100万米ドルを調達したと発表した。ベンチャーキャピタルのPlayground Globalが主導したシード資金調達で、信越化学工業も出資に参加している。
米国マサチューセッツ工科大学(MIT)発の新興半導体メーカーVertical Semiconductor(以下、Vertical)は2025年10月15日(米国時間)、縦型窒化ガリウム(GaN)トランジスタ開発に向け、1100万米ドルを調達したと発表した。
2025年末までにプロトタイプのサンプル提供開始
Verticalの技術は、同社のアドバイザー兼共同創設者でもあるMITのTomas Palacios教授が率いる研究グループによる10年にわたる研究をベースにしたものだという。AIデータセンター向けをターゲットとして、既存のシリコンよりも電力システムの高効率化と高電力密度化を実現するGaNと独自の縦型アーキテクチャを組み合わせ、「AIインフラにおける発熱を大幅に削減し、電力システムの設置面積を縮小し、エネルギーコストを削減する。効率は最大30%向上し、AIデータセンターラックの電力フットプリントが50%縮小可能になる」と説明している。

Vertical Semiconductorの最高技術責任者(CTO)兼共同創設者のJosh Perozek氏(左)とCEO兼共同創設者のCynthia Liao氏(中央)、アドバイザー兼共同創設者のTomas Palacios氏 出所:Vertical Semiconductor
同社CEO兼共同創設者のCynthia Liao氏は「AIの進展速度はアルゴリズムだけではない。AIハードウェアにおける最大のボトルネックはシリコンへの電力供給速度だ。当社は効率の向上だけでなく、データセンターにおける電力供給方式を大規模に再構築することで、次世代のイノベーションを可能にする」とコメントしている。
同社は標準的なシリコンCMOS半導体製造プロセスを用いて、8インチウエハー上でこの技術を実証済みといい「既存プロセス技術との統合が可能で、100Vから1.2kVまでのデバイスへの実用化準備が整った」と説明。2025年末までに、最初のプロトタイプパッケージデバイスの早期サンプル提供を開始し、2026年には完全統合ソリューションの提供を開始する予定だという。
今回のシードラウンド資金調達は、ベンチャーキャピタル(VC)であるPlayground Globalが主導し、JIMCO Technology Venturesやmilemark・capitalの他、信越化学工業も出資に参加したという。
Playground Globalは、Intelの前CEOであるPat Gelsinger氏が2025年3月にゼネラルパートナーとして参画したことでも知られる。Gelsinger氏は今回の発表について、LinkedInの投稿で「Vertical Semiconductorのローンチに非常に興奮している。同社の縦型GaN電力変換技術は、AIデータセンターをはじめとする分野におけるコンピューティングと電力変換のエコノミクスを変革するだろう」とコメントしている。
出資に参加した信越化学工業はシリコンウエハー最大手で、2019年には米国Qromisが開発したGaN成長専用の複合材料基板であるQST基板のライセンスを取得し、直径が150mmと200mmのQST基板および、GaN on QSTエピタキシャル基板を販売。2024年9月には300mm QST基板の開発成功も発表している。
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