安価な鉄を用い高性能なリチウムイオン電池開発へ、京都大ら:リチウムイオンを可逆的に脱挿入
京都大学や米国スタンフォード大学らによる共同研究チームは、層状酸化物「Li4FeSbO6」において、Fe3+とFe5+との間で起こる酸化還元反応によって、リチウムイオンを可逆的に脱挿入できることを実証した。しかも動作電圧は4.2Vと高い。安価な鉄を用いて高性能なリチウムイオン電池の開発が可能になる。
動作電圧は4.2Vと高く、高いエネルギー密度を生み出す
京都大学や米国スタンフォード大学らによる共同研究チームは2025年10月、層状酸化物「Li4FeSbO6」において、Fe3+とFe5+との間で起こる酸化還元反応によって、リチウムイオンを可逆的に脱挿入できることを実証したと発表した。しかも動作電圧は4.2Vと高い。安価な鉄を用いて高性能なリチウムイオン電池の開発が可能になる。
リチウムイオン電池は電気自動車やスマートフォンなどに搭載されていて、需要が拡大している。一方で、材料コストを抑えながら、より高い性能が得られる電池材料の開発も必須となってきた。こうした中、正極酸化物材料として注目されているのが、鉄(Fe)を含んだリン酸鉄リチウム(LiFePO4)だ。ただ、Fe2+とFe3+との間で起こる酸化還元反応での動作電圧は2.8〜3.5Vと低く、電池のエネルギー密度を大きくできなかったという。
そこで今回は、LiとFeイオンの配列を精密に制御した「Li4FeSbO6」を正極材料に用いた。そうしたところ、Fe3+とFe5+との間で起こる酸化還元反応によって、Li4FeSbO6とLi2FeSbO6との間で、リチウムイオンを可逆的に脱挿入(電気容量は165mA・h/g)できることが分かった。その動作電圧もこれまでに比べ大幅に高い。
一方で、Fe3+とFe5+との間で起こる酸化還元反応は、LiとFeイオンの秩序配列度が低くなれば、可逆性は大きく損なわれることが分かった。これを検証するためX線吸収分光測定を行った。この結果、陽イオンの秩序配列度が高いと、Li脱離時(Li2Fe5+SbO6)にFeの3d軌道と酸素の2d軌道間で強い軌道混成となり、Fe5+状態は安定化されることを確認した。逆に陽イオンの秩序配列度が低いと、Feイオン同士が隣接する。これによって、酸素の二量体が形成されFe5+状態が不安定になるという。
これらの研究成果から、Feイオン同士が隣接しない結晶構造にすれば、高原子価Feイオンの酸化還元反応を可逆的かつ安定して起こせることが分かった。研究チームは今後、実用的な電池デバイスを作製し、その性能実証に取り組む。さらに、類似の結晶構造を持つ化合物を中心に、より高性能な特性を示す正極材料の開発も進めていく。
今回の研究は、京都大学化学研究所の後藤真人助教と島川祐一教授および、米国スタンフォード大学、オークリッジ国立研究所、SLAC国立加速器研究所、アメリカ国立標準技術研究所が共同で行った。
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