細いCNT同士を融合、直径2倍のCNTに変換:後処理による物性変換も可能に
京都大学と産業技術総合研究所、物質・材料研究機構の研究グループは、細いカーボンナノチューブ(CNT)同士を融合し、直径が2倍となるCNTに効率よく変換できる方法を開発した。太いCNTの構造制御や後処理による物性変換が可能となる。
カイラル角が30度かそれに近いCNTのみが効率よく融合
京都大学と産業技術総合研究所、物質・材料研究機構の研究グループは2025年2月、細いカーボンナノチューブ(CNT)同士を融合し、直径が2倍となるCNTに効率よく変換できる方法を開発したと発表した。太いCNTの構造制御や後処理による物性変換が可能となる。
CNTは炭素の円筒状ナノ材料で、未来の機能材料として注目されている。その物性は、円筒の直径や炭素の並び方に強く依存するという。このため、特定構造を実現するための合成方法や分離方法が提案されている。ただこれまでの方法は、直径が1nm程度のCNTに限定されており、1.3nmを超えるような太いCNTでは合成や分離を行うのが難しかったという。
研究グループは今回、事前に構造分離を行い構造が整ったCNT集積体を、5×10-4Pa程度の減圧下において900〜1000℃で熱処理した。こうした極めてシンプルな方法で、細いCNT同士を効率よく融合させ、直径が2倍となるCNTに変換できることを実証した。
また、10Pa程度の微量酸素下では酸素が触媒として機能することから、融合に必要な温度は600℃まで下げられることが分かった。しかも、得られたCNTは前駆体の細いCNTのカイラル角を保持したまま、直径が2倍になったことを確認した。ナノチューブの融合反応がナノチューブ膜全体で効率的に起こっていることも分かった。
さらに、融合によって合成された多くのナノチューブにおいて、「励起子共鳴ピーク」を初めて観測した。これは特定構造のCNTとして固有の電子構造と光学特性があることを明確に示すものだという。
実験において注目すべき点として挙げたのは、カイラル角が30度の「アームチェア型」と、30度に近い「近アームチェア型」のCNTのみが効率よく融合したことだ。一方でカイラル角が小さいCNTの融合はほとんど見られなかったという。
今回の研究成果は、京都大学エネルギー理工学研究所の宮内雄平教授や産業技術総合研究所ナノ材料研究部門の田中丈士研究グループ長、物質・材料研究機構マテリアル基盤研究センターの野原幸治主幹研究員らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
パワー半導体モジュール基板の熱拡散率評価法を検証
産総研グループ(産業技術総合研究所およびAIST Solutions)と日本ガイシは、パワー半導体モジュールなどに用いられる窒化ケイ素製セラミック基板の熱拡散率を、高い精度で評価するための共同研究を始めると発表した。スマホの周波数フィルター高性能化に効く AlN系圧電薄膜
産業技術総合研究所(産総研)と物質・材料研究機構は、弾性波フィルターに用いられる窒化物圧電材料の性能を大きく向上させることに成功した。圧電定数を35.5pC/Nまで高めたことで、より高い周波数帯域に対応した弾性波フィルターを開発できるとみている。ダイヤモンド表面を原子レベルで可視化 デバイス性能向上に貢献
東京大学は、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、ダイヤモンド表面を原子レベルで可視化する技術を開発した。ダイヤモンド薄膜が成長する機構の解明や、ダイヤモンドデバイスの性能向上に貢献できるとみている。FRAM向け新材料を開発、メモリ動作電圧が6割減に
産業技術総合研究所(産総研)と東京科学大学は、強誘電体メモリ(FRAM)に用いる新材料として「GaScN結晶」を開発した。金属添加物(Sc)の濃度を高めることで、杭電界を小さくした。これにより、従来の窒化物材料と比べメモリ動作に必要な電圧を60%も下げることができるという。光と磁石が強く結合 量子コンピュータを室温で操作できる可能性も
東北大学や京都工芸繊維大学らの研究グループは、磁性メタ原子をカイラルメタ原子に挿入して作成した人工構造物質(メタマテリアル)「磁気カイラルメタ分子」が、室温で極めて強く結合したマグノンポラリトンになることを確認した。超高容量を実現 全固体フッ化物イオン二次電池用正極材料
京都大学の研究グループは、トヨタ自動車や東京大学、兵庫県立大学、東北大学および、東京科学大学と共同で、全固体フッ化物イオン二次電池用の超高容量正極材料を開発した。既存のリチウムイオン二次電池正極材料に比べ、2倍を超える高い可逆容量を示すことが分かった。