ポスト5Gに期待! 「世界初」AlN系高周波トランジスタの動作に成功、NTT:独自の低抵抗構造を採用
NTTは、窒化アルミニウム(AlN)系高周波トランジスタの動作に「世界で初めて」(同社)成功したと発表した。これまで困難とされてきた高アルミニウム(Al)組成での高周波動作を低抵抗構造の設計によって実現したものだ。ミリ波帯における信号増幅が可能で、ポスト5G時代の無線通信サービスの向上が期待される。
NTTは2025年12月8日、窒化アルミニウム(AlN)系高周波トランジスタの動作に「世界で初めて」(同社)成功したと発表した。これまで困難とされてきた高アルミニウム(Al)組成での高周波動作を低抵抗構造の設計によって実現したものだ。ミリ波帯における信号増幅が可能で、ポスト5G時代の無線通信サービスの向上が期待される。
NTTは、2025年12月10日(米国時間)、米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催される国際会議「71st IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM 2025)」で、この成果を発表する。
電力損失はGaNの50% 期待が高まるAlN
AlNはかつて、電気を流さない絶縁体だと考えられてきた。NTTは高品質なAlN薄膜の成長技術を開発し、2022年に「世界で初めて」(同社)AlNの半導体化に成功した。
AlNは半導体として最大級の物性値を有する。絶縁破壊電界が大きいことからパワーデバイスへの応用が特に期待されていて、電力損失はシリコン(Si)の5%未満、炭化ケイ素(SiC)の35%、窒化ガリウム(GaN)の50%にまで低減できるとされている。
NTTもAlNパワーデバイスの研究開発を行っていて、2024年12月にはAlN系ショットキーバリアダイオードの電流輸送機構解明を発表していた。
独自の低抵抗化構造で高周波動作に成功
しかし今回NTTが発表したのは、パワーデバイスではなく無線通信デバイスとしての成果だ。
高出力高周波デバイスの性能指数(絶縁破壊電界と飽和電子速度の積に比例)は、AlNはGaNの5倍と非常に高い。AlN系半導体である窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)はAl組成を高めるほど性能指数が向上するが、電極の接触抵抗とチャネル抵抗が増加してしまい、Al組成が75%を超えると高周波動作は困難になるという課題があった。
NTTは独自技術でこの課題を克服した。まず接触抵抗については、AlGaNチャネル層に直接電極を形成していた従来構造を見直し、電極とチャネルの間にAlGaNコンタクト層を挿入することでエネルギー障壁を低減。これによって接触抵抗の増加を抑えた。
さらに、分極ドープAlGaNチャネル構造によって高濃度の3次元電子ガスを形成し、チャネル層の電子密度を高め、チャネル抵抗も低減させた。
結果として、ドレイン電圧に対するドレイン電流の優れた立ち上がりを確認。低抵抗化によって、高Al組成(85%)のAlN系トランジスタにおいても高いドレイン電流とオンオフ電流比が実現したといえる。
高Al組成では困難とされてきた高周波動作についても、1GHzを超える高周波での電力増幅動作を「世界で初めて」(NTT)実現した。最大動作周波数はミリ波帯の79GHzに達し、「これまで報告されているAlN系トランジスタの中では最高値」(同社)となった。
パワーデバイス以外の可能性を提示
この成果によって、今後、AlNの応用領域がパワーデバイス以外にも大きく広がる可能性が示された。ポスト5G時代の通信エリアの拡大や通信高速化など、無線通信インフラの発展への貢献が期待される。
今後は、より大電流/大電圧の動作が可能なデバイス構造を設計し、パワーデバイスから無線通信デバイスまで広く応用可能な技術の研究開発を進めていくという。
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